◎宗次郎さんのアルバム・レビュー

第26作『昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ』

 

宗次郎オリジナルアルバム第26作

『昔むかしの物語を聴かせてよ』

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6年ぶりにリリースされた、待望の新作。

忘れてはいけない、昔々から語り継がれてきた“こころ”。

自然と共に暮らし、自然と対話して生きてきた人々への思い、そして祈りを紡いだ感動作

 

 

発売日:201942日(制作・発売・販売:風音工房)

 

プロデュース:宗次郎

作曲:宗次郎

編曲:蓮沼健介(①~⑥、⑨、⑪、⑫)、大塚彩子(⑦)、小林健作(⑩) 

 

 

<レビュー>

 

昔むかしの物語を聴かせてよ

 優しいピアノの音が印象的な前奏・イントロに続き、宗次郎さんのオカリナが、郷愁あふれる温かいメロディーを奏でる…。

 目をとじれば、日本の山里の四季折々の光景が目に浮かんでくる。

 雪どけの春…桜の花…青々とした夏の山…錦色の紅葉…白銀の雪景色…。そして、その景色にとけこむ、わらぶき屋根の民家とそこで暮らす素朴な人々…。

 このアルバムのジャケットには、世界遺産でもある、富山県の五箇山の合掌集落の写真が使われている。この曲はまさに、その五箇山のような日本の原風景を強く想い起させる、イマジネーションにあふれている。

 どこまでも優しくあたたかく、懐かしさを感じさせる宗次郎さんのオカリナの音色と、美しい旋律…。それに耳を傾けていると、自然と目頭が熱くなり、涙があふれてくる。

 哀しいから涙が出るのではなく、懐かしさのあまり、涙腺が刺激される。

 わらぶき屋根や、いろりのある民家で暮らしたことはないし、山里に暮らしていたことがあるわけでもない。にもかかわらず、何故だか懐かしい…。そして、不思議なくらいに涙が出る…。

 これはきっと、DNAレベルで眠っている、日本人の心の記憶・魂の記憶を呼び覚ましているからに違いないだろう。

 その“記憶=昔むかしの物語”を聴かせてくれるのが、この作品である。

 宗次郎さんの郷愁あふれるオカリナの音色と、蓮沼健介さんの優しいタッチのピアノが、絶妙なアンサンブルを奏でている。

 とりわけ、エンディング(曲の終わりの方)のメロディーラインは、この上ないほどに、ノスタルジーを感じさせ、美しい…。(高音域の笛である、オカリナ・ソプラノC管の音色が美しく印象的)

 「昔むかしの物語を聴かせてよ」は、宗次郎さん屈指の感動的な曲である。

 

美しき森に棲むものたち

 宗次郎さんがこのアルバムを制作するきっかけとなったのが、画家の加藤孝昭さんという方の作品を見たことからだそうだ。その絵が、アルバムのブックレットに載っている。

 夜空に輝く北斗七星と、その下で、暗闇の中じっとたたずんでいる、狐のような姿の不思議な動物…。深い深い森の中で、はるか昔から生き、人々の営みも見て来たのかもしれない…。そんな印象を受ける絵画である。

 この曲「美しき森に棲むものたち」は、まさに、この絵のイメージを音楽化したかのような作品。

 和風なテイストのメロディーラインがとても印象的な曲で、宗次郎さんならではの透明感が味わえる。

 中間部では少し雰囲気も変わり、ダイナミズムと幻想性をも感じさせる曲調となっている。口ずさめるような、親しみやすいメロディーながら、曲の展開に深みを感じさせる、ファンタジックな雰囲気の傑作。

 

小さな国の笑顔の子どもたち

 この曲もまた、メロディーラインが大変美しく、優しい素直な曲調が魅力的な傑作。

 シャッフル・リズム(スウィング=思わず体を揺らしてしまうような、楽しい感じのリズム感が味わえる)が心地良く、聴いていて、心が楽しく優しい気持ちになれる曲。

 この曲がコンサートで初披露された、20188月の岐阜・根尾の淡墨桜コンサートでのMC(曲間のトーク)で、ネパールの子どもたちの無邪気な笑顔を見て作った曲と紹介されていた。

 ネパールに限らず、世界中の国や民族を問わず、子どもたちのピュアな笑顔を集めたら、きっとこの曲のようなメロディーになるだろうな…と思わせる作品。

 曲の構成に関しては、覚えやすい口ずさめるようなAメロ(主旋律の中で1番目に来る部分)も素晴らしいが、中間部のコーラスの音が入る所のメロディーもまた素晴らしい。

 途中、4拍子系から3拍子系にリズムが変化し、オカリナが細かい動きを奏でる部分も聴きどころとなっている。

 

真夜中のダンス

 コンサートのMCで、真夜中の森からイメージして作った曲、と宗次郎さんが紹介しておられた曲。

 曲のテーマ的には、2曲目「美しき森に棲むものたち」につながる曲と言えるかもしれない。

 森の中で色んな動物たちが、真夜中に集まってダンスをしているような、宮沢賢治風の童話的なイメージが浮かぶ曲。

 ゆったりめのメロディーの前奏・イントロにつづいて、シャッフル・リズム(3曲目にも登場)の愛らしい雰囲気のメロディーが奏でられる。(ちなみに、イントロのメロディーの出だしが、アルバム『木道』の「月の下で」のメロディーに似ている)

 曲自体は短調の曲なので、愛らしい中にも、どこか哀愁も感じさせるメロディーラインとなっている。

 

いろりのそばで

 タイトル通りの、ほっこりとした穏やかな印象の作品。

 アルバム・ジャケットにもなっている、五箇山の合掌造り集落をはじめ、日本のわらぶき屋根の民家には囲炉裏がある。その囲炉裏のそばで、おばあちゃんが語る昔話に耳を傾けているような…。そんな風情が感じられる作品である。

 テーマ的に、1曲目との関連性を感じさせるが、素朴な雰囲気を堪能できる曲となっている。

 楽器編成も、宗次郎さんのオカリナに、ピアノ、弦楽アンサンブルを主体としたアレンジ・編曲で、間奏部の弦楽の響きが大変美しい。

 宗次郎さんならではの、郷愁あふれるオカリナ・サウンド&メロディーを味わえる良曲。

 

ゆっくりやさしく(春がゆっくり通り過ぎる)

 サブ・タイトルになっているように、春がゆっくりと通り過ぎて行く様を描いた作品とのこと。

 この曲を初めて聴いたのが、201944日の京都・平安神宮紅しだれコンサートにおいてだった。桜の花にぴったりなイメージの曲で、平安神宮の演奏会場の雰囲気にもマッチして、大変印象に残ったのを覚えている。

 桜の花が咲き、ゆっくりと花びらを散らしているような…。そんな日本の春の情景が浮かんでくる良曲。

 前奏・イントロや間奏などで流れる琴の音(これはシンセサイザーで出している音と思われる)による、サウンドとメロディーが印象的。

 また、曲のエンディング(終わりの方)あたりで流れるメロディーが大変素晴らしい。

 全体的に爽やかで優美な曲調。個人的に大のお気に入りの曲。

 アルバム『古~いにしえみち~道』と同じく、蓮沼健介さんによる、 “和”を感じられる見事なアレンジを堪能できる傑作。

 

森の中の散歩道

 このアルバムで唯一、大塚彩子さんによる編曲の作品。

 大塚彩子さんの編曲と言えば、アルバムJapanese Spirit『愛しの森a-mollあるいは、『天空のオリオン』の「夢街道」や「リュブリャーナの青い空」などが挙げられる。

 ストリングス(バイオリン類の弦楽アンサンブル)やハープなどがメインの、生楽器によるアコースティック感あふれる、魅力的なアレンジをされておられる。そしてこの曲においても、弦楽アンサンブルとハープが、宗次郎さんのオカリナとともに、大変美しい演奏を聴かせている。

 タイトルからすると、森の中の小道・散歩道を、様々な色んな動物たちが歩いたり、顔をのぞかせたり…そんなイメージだろうか。

 クラシカルな(クラシック音楽的な)舞曲風の曲調が印象的な作品。

 

あの日の夕焼け

 宗次郎さんのオカリナ・ソロ(独奏)による作品。

 今までの作品で言うと、アルバム『風人』の「凪」の印象に近い雰囲気。

 覚えやすく、シンプルなメロディーだが、真っ赤な夕焼け空の下で、ただ一人たたずんでいるような…そんな郷愁を味わえる作品。

 オカリナ・テナーG管(中低音域の笛)を中心にしつつ、途中からユニゾン(同じメロディーの動き)で、ソプラノG管(高音域の笛)が1オクターブ上を演奏している。

 テナーG管とソプラノG管の、2本のオカリナを使った多重録音の曲となっている。

 ちなみに201947日のアルバム発売記念コンサート(横浜)では、テナー管1本によるソロ演奏にて披露された。

 宗次郎さんの味わい深いオカリナの音色が堪能できる曲。

 

小さき者の祈り(ラマの悲しみ、怒り悲しみは力)

 ダライ・ラマの悲しみと怒りを表現した曲とのこと。深い祈りを感じさせるサウンドとメロディーが印象的な作品。

 オカリナのソプラノ管(高音管)による澄んだ音色は、“祈り”を表現するのにぴったりだと感じさせる曲。

 内省的で沈思するようなメロディーラインから、曲の終盤では、3連符(タタタという感じの推進力のある音型)を多用した力強い曲調に変化する所が聴きどころ。

 静と動を見事に対比した構成となっている。

 アルバム『古~いにしえみち~道』に、中宮寺の仏像をもとにした「KAN-NON」という曲があるが、この曲もまた、聴いていると様々な“仏像”の姿が、目に浮かんでくるような感覚をいだく。

崇高な精神を感じさせる曲である。

 

最終列車

オカリナとアコースティック・ギターによる、シンプルなアレンジの曲。とても静かで穏やかな曲調。編曲は、ギターの小林健作さんが担当。

 ギターの穏やかなアルペジオ(分散和音)の伴奏にのって、宗次郎さんのオカリナがゆったりとしたメロディーを奏でている。

 タイトルからすると、夜の最終列車に、ゴトンゴトンと揺られているような情景を描いた作品だろうか。(曲の最初と終わりには、隠し味的に、鉄道の効果音が入っている)

 乗客もあまり乗っていなくて、窓の外には、星空が広がっているような…。そんな印象の曲である。

 もっとも、実際の最終列車でこの曲が流れたら、あまりにも心地良すぎて、駅を乗り過ごしてしまいそう…。

 

飯館に還る(いつかはきっと…。)

 宗次郎さんは福島県がお好きだそうで、酪農が盛んな飯館村もお気に入りの場所だったそうだ。

 この曲は、飯館の人々や自然・風景を応援する気持ちや祈りが込められた作品となっている。美しいメロディーとともに、宗次郎さんの深い想いも感じさせる傑作。

 曲は大きく3つの部分で構成される。

 まず、ゆったりとした抒情的なメロディーが美しい1つ目の部分。その爽やかで温かなメロディーラインは、飯館の美しい野山や四季の移ろいを表しているかのよう。

 2つ目の部分は、6拍子にリズムが変わり、力強く前向きな希望を感じさせる、動きのあるメロディーとなっている。宗次郎さんがこの曲に込めた、飯館への応援歌を感じることができる。

 そして、3つ目の部分は、再び1つ目の部分の曲調とメロディーが繰り返される。

 いつかきっと、美しい飯館の野山に、以前のような平和な営みが、再び戻ることを願うかのように…。

 

暁のダンス(希望へのダンス)

 ゆったりした感じの曲が多いこのアルバムの中で、唯一、リズミックで躍動的な、ダンサブルな曲。覚えやすくキャッチーなメロディーが素晴らしく、聴いていて、気持ちが高揚する感動を味わえる。

 どんなに長い夜も、いつかは必ず“暁”が来る、そんな前向きな希望を感じさせる作品である。

 全体的な曲調としては、アルバム『風人』の「光に向かって」のような、民族調のメロディーラインに、ドラムスとパーカッション・打楽器のサウンドを見事に融合した作風である。宗次郎さんのオカリナならではの独自の世界観を楽しむことができる。

 聴き終わった後に、勇気や元気が湧いてくるような、力強い作品となっている。

 宗次郎さんの躍動的なタイプの曲を代表するような、大傑作が誕生したと言える。

 

 

<総評>

 『昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ』は、前作『オカリーナの森からⅡ』以来、6年ぶりに発表されたオリジナル・アルバムである。

 ファン待望の新作となったこの作品だが、その期待に見事にこたえる傑作となっている。

 全体的に、穏やかで優しい印象の曲が多いのが特徴と言える。

 あたたかく、懐かしさを感じさせる美しいメロディーで彩られており、宗次郎さんが作曲家としても、より円熟度を増していることが感じられる。そして、ただ美しいだけでなく、そのメロディーに込められた深いメッセージやテーマ性も、ひしひしと心に伝わってくる。

 素晴らしい感動作となっている。

 とりわけ、アルバム・タイトルでもある1曲目「昔むかしの物語を聴かせてよ」は、このアルバムのテーマを見事に表現した名曲。

 初めてこの曲を聴いたのは、20188月の岐阜・根尾の淡墨桜コンサートにおいてだったが、この時に初披露された演奏を聴いた際、深く感動し、目頭が熱くなり涙があふれてきたのを覚えている。

 心にじんわりと響いてくるような、宗次郎さんのオカリナの音色と郷愁あふれるメロディーが見事にマッチした傑作で、宗次郎さんの新たな代表曲と言っても過言ではない名曲である。

 他の曲も、11曲が、1篇の物語を感じさせ、時に優しく時に楽しく、時に哀しく…心に伝わってくる抒情性に満ちあふれている。

 『古~いにしえみち~道』以来の、蓮沼健介さんの編曲も大変素晴らしく、宗次郎さんの美しいメロディーを、見事なアレンジで彩っている。(『古~いにしえみち~道』もそうだが、このアルバムでも、「昔むかしの物語を聴かせてよ」「ゆっくりやさしく」のような、和風テイストの曲のアレンジは特に素晴らしいクオリティとなっている)

 宗次郎さんのアルバムは、2007年の『土の笛のアヴェ・マリア』以降、『オカリーナの森から』『古~いにしえみち~道』『オカリーナの森からⅡ』と、全てのアルバムが最高傑作と言えるレベル・クオリティを誇っている。そして、今回の新作『昔むかしの物語を聴かせてよ』もまた、宗次郎さんの新たな最高傑作が誕生したと評することができる。(『土の笛のアヴェ・マリア』以降のアルバムはすべて傑作!良曲揃いとなっている)

 今年(2019年)の1010日には、65歳となられる宗次郎さん。

円熟度をどんどんと増していく宗次郎さんの音楽に、今後も大いに期待したい。

 

(※アルバムの販売元に関して)

 今作『昔むかしの物語を聴かせてよ』は、宗次郎さんのオリジナル・アルバムとしては初めて、大手レコード会社を介さずに、制作・発売・販売をすべて風音工房(宗次郎さんの個人事務所)が行うかたちとなっている。

 以前の『オカリーナの森からⅡ』のレビューの総評でも触れたことだが、昨今の音楽業界・レコード会社・CD販売店は、ヒーリング・ニューエイジ系のCDの制作・発売に、非常に消極的になってきている印象がある。

 宗次郎さんのアルバムが6年ぶりとなってしまったのも、その辺りの事情が絡んでいた可能性もあるが、一方で、大手レコード会社を通さずに、風音工房の自社制作盤として、ベスト盤が2015年に発売されていた。それが、新録音によるベスト・アルバム40th Anniversary of Ocarina Lifeであった。

 その辺りのことから、宗次郎さんのオリジナル・アルバムの新作が今後発売されるとしたら、風音工房による完全自社制作で出るのではないかと予想していたが、その予想通りの形で『昔むかしの物語を聴かせてよ』は発売された。

 宗次郎さんのオリジナル・アルバム史における、この新たなる制作体制を大いに歓迎したいと思う。

 今後も、平成の時代と同じく、令和の新時代においても、宗次郎さんの新作アルバムが数多く発売されることを待望したい。

 そして、風音工房自社レーベルで発売された、それらの作品を購入し、愛聴することで応援していきたいと思う。

 

 

☆以下のサイトで、購入ができます。

風音工房

山野楽器

 

 

<宗次郎CD総目録>