宗次郎オリジナルアルバム第15作
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屋久島の森をモチーフに、森に生きる生命への慈しみが感じられる作品。
発売日:1997.9.26(ポリドール)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎
編曲:大塚彩子
<レビュー>
①愛しの森a-moll
シンプルだが、力強いメロディーが印象的で素晴らしい。
屋久島に生きる、生命の躍動を感じられるような作品。パーカッション(打楽器)とストリングス(バイオリン類のアンサンブル)を融合させた、大塚彩子さんによる編曲・アレンジも秀逸。
2015年の40周年コンサートでこの曲が演奏された際、前奏・イントロがバンドメンバー全員によるパーカッション演奏で、その中を宗次郎さんが登場して、この曲のメロディーを奏でるという演出になっていたのが、記憶によく残っている。
宗次郎さんの作品の中でも、屈指の名曲。聴いているとパワーが湧いてくる感じがする。
②Kiccoryの涙
イントロの、雨の雫を思わせるような音型が印象的。
屋久島と言えば、“雨”のイメージがあり、このアルバムでも雨をモチーフにした曲が何曲かある。
この曲は、タイトルには“雨”というワードは、直接的には含まれてはいないが、静かなメロディーに耳を傾けていると、ヤクシカが雨に濡れながら、森の木々のすき間に見える空を、見上げているような…そんな情景が目に浮かんでくる。
この曲は、宗次郎さんと交流があり、宗次郎さんが屋久島を訪れた際に案内役をされた、高田久夫さんという方に捧げられた曲だそうだが、屋久島の森で働いてこられた高田さんへの、宗次郎さんの感謝の思いがこもっている曲なのかもしれない。
③森のダンス
これまでもアルバムにも度々あった、軽快なメロディーの舞踊曲風の作品。
ホ短調の曲ながら、スタッカート(音を短く切って歯切れよく演奏する方法)を多用したメロディーで楽しい雰囲気。屋久島の森に宿っている精霊(もののけ姫のコダマみたいなの)たちが、楽しそうにダンスしているような光景が思い浮かぶ。
④雨の日は寄り添って
雨の中、木の上でサルたちが身を寄せ合っている様を、モチーフにした曲らしいが、日本的なメロディーラインがとても美しい曲。
イントロや、オカリナのバックの伴奏が、古いわらべ唄を思わせるようなメロディーになっているのが印象的。
⑤森にひとり
重厚で、とても深みのある作品。
内向的・瞑想的な感じのメロディーを、オカリナの澄んだ音色が奏で、ストリングスがユニゾン(同じメロディーを別の楽器が一緒に演奏すること)で支えるアレンジが秀逸。
後半は、ストリングスが付点のリズムによる、躍動的なサウンドを奏で、ドラマチックに楽曲が展開していく構成が素晴らしい。格調のある作品となっている。
⑥子守歌
ハープの音色が心地良く響く、温かく優しい雰囲気の曲。
ゆったりとしたオカリナのメロディーは、まるで森の中で木漏れ日に包まれているかのよう…。タイトル通り、まさに子守歌を思わせる、静かで安らかな曲。
⑦雨の日はもっと寄り添って
3拍子系の悲哀に満ちたメロディーを、オカリナ、ピアノ、ストリングスの編成で美しく奏でられる。
タイトルが似てはいるが、4曲目とは全く異なるメロディーの、別個の作品。
イメージとしては、4曲目の雨は音を立ててサァーと降っている雨だとしたら、この7曲目の雨は、霧雨のように音もなく静かに降っている雨を連想する。
⑧エンサールの森
さわやかで優しいメロディーが印象的な良曲。
コンサート時の宗次郎さんのMC(曲間のトーク)によると、屋久島の森に住むサルの家族が、仲睦まじく暮らしている様をイメージした曲とのこと。
慈しみにあふれた、抒情的な曲調で、屋久島の森の恵みのイメージを、音楽から感じとることができる。
⑨太陽と月に照らされて
3拍子(もしくは遅めの6拍子?)のゆったりとした前半と、5拍子の動きのある後半部の2部に、大きく分けることができる。(ちなみにハープのみのイントロは4拍子と思われる)様々な拍子が使われている曲だが、8分の5拍子の曲は珍しい。
独特なリズムを楽しめる作品。
なお、アコーディオンのcobaさんが、アルバム『水心』『鳥の歌』以来となる、宗次郎さんの曲への参加となっている。
⑩夜の森から
タイトル通り、夜想曲といった趣の曲。
オカリナとヴァイオリン、チェロという、室内楽的な編成。
静かでゆったりとしたパートと、軽快で速いテンポのパートに大きく分けられる。速いテンポの所のメロディーが、ちょっとロシア民謡っぽい。また、全体的にクラシック曲のような曲調となっている。そのせいか、このアルバムの中で、この曲だけ少し異色な感じがする。
<総評>
前作『Japanese Spirit』につづき、本作も大塚彩子さんがアレンジを担当されたことで、ストリングスなど生楽器系・アコースティックな響きをふんだんに使った曲調を、今作でも味わうことができる。
屋久島の森がテーマとなっており、宗次郎さんが屋久島で見たり感じたりした風景や心象が、音楽を通して伝わってくる。まさに、森のイオンを音で感じられるような美しいアルバムである。
中でも、「愛しの森a-moll」と「エンサールの森」は、屋久島の森が持つ“動”の部分と“静”の部分を、それぞれ見事に表現した傑作と言える。
このアルバムが発表された1997年は、おりしも、太古の森をテーマにしたアニメ映画『もののけ姫』が公開され、大ヒットしていた時期で、劇中の森のモデルの一つである屋久島に注目が集まっていた。そういう意味では、当時、非常にタイムリーなテーマを扱ったアルバムだったと言える。
屋久島を訪れた宗次郎さんは、遠く縄文時代から生き続けている巨木の数々を見上げたことだろう。そして、遥かないにしえ・縄文への郷愁を感じられたかもしれない。
『愛しの森a-moll』の次が、縄文をテーマにした『まほろば』になったことは、自然な、そして必然的な流れだったと言えるのではないだろうか。
そういった観点から、宗次郎さんのアルバムの制作順に着目すると、今作『愛しの森a-moll』は、次作『まほろば』への伏線と見ることもできる。
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