宗次郎オリジナルアルバム第18作
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北欧・東欧をモチーフにしたファンタジックな作品。人気曲「天空のオリオン」収録。
発売日:2000.9.1(キティ:現ユニバーサルミュージック)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎
編曲:武沢豊(①②⑦)大島ミチル(③⑤⑥)、大塚彩子(④⑧⑨)、宗次郎・斎藤葉(⑩)、沢田完(⑪)
カンテレ演奏:はざた雅子(①②⑤⑪)
<レビュー>
①カレヤラ(武沢豊編曲)
“カレヤラ”とは、カレリア(フィンランド南東~ロシア北西部の地方)のフィンランド語での呼び方“Karjala”を元にしているらしい。
森林と湖沼がとても多い地方とのことで、カンテレ奏者はざた雅子さんが弾く、カンテレ(フィンランドの民族楽器の琴)の音色が、そのイメージを増幅する。
森と湖と雪の北欧へ、音楽を通してイマジネーションの旅をする、このアルバムの冒頭を飾るにふさわしい美しい曲。
アレンジ・編曲担当の武沢豊さんと宗次郎さんは、本作が初顔合わせだが、とても洗練された編曲で素晴らしい。
②North Wind(武沢豊編曲)
ストリングス(バイオリン類の弦楽器のアンサンブル)による前奏・イントロのメロディーが印象的。
短調の、どこか哀愁のある流麗なメロディーラインが、北欧の冷たく寒い空気感を見事に表している。
この曲も、1曲目に続き武沢豊さんによる洗練度の高いアレンジとなっている。カンテレの音が、隠し味的にどこで使われているのかを探しながら聴くのも楽しい。
③森のトロール(大島ミチル編曲)
“トロール”と言えば、北欧に伝わる妖精(妖怪?)で、ファンタジー系の映画やゲームなどでもすっかりおなじみだが、この曲もハープの音をふんだんに使い、ファンタジックな雰囲気を味わえる曲調となっている。
愛らしいメロディーラインながら、どこか不思議で幻想的な感じも漂う良曲。
このまま、ファンタジー系の映画やゲーム、アニメなどのサントラとして流しても、ピッタリ合いそうな気がする。
このアルバムの中でも、特に“北欧っぽい”雰囲気の作品。
④夢街道(大塚彩子編曲)
NHK BS-2『世界悠々』テーマ曲。
軽快で覚えやすいメロディーが秀逸。宗次郎さんの数ある作品の中でも、特にキャッチーなタイプの部類に入る。一度聴いたら忘れられないような、強い印象が残るメロディーラインの曲。
アルバム『愛しの森a-moll』以来となる、大塚彩子さんによるアレンジも素晴らしい。
NHK BSのテレビ番組のテーマ曲だったらしいが、どこか旅情をそそる雰囲気の曲。世界中の様々な街道を旅しているような…、そんなイメージにぴったりの作品。
スタッカート(音を歯切れよく短く切る演奏)を効果的に使ったAメロ(主旋律で1番目の部分)と、流れるようなスケール旋律(音階を順に滑らかに演奏するタイプの旋律)のBメロ(主旋律で2番目の部分)の対比が素晴らしく、特にBメロの旋律は、宗次郎さんの見事な、流れるような滑らかな演奏を堪能できる。
⑤憧れ(大島ミチル編曲)
イントロのカンテレの音色が印象的。
カンテレとストリングスを使ったアレンジが聴きどころ。哀愁に満ちたメロディーを奏でる宗次郎さんのオカリナを、見事に支えるアレンジとなっている。
このアルバムの中では悲しい雰囲気の曲だが、寒く暗く深い冬に閉ざされた、北欧の人たちの春への憧れを描いているのだろうか…。
⑥風の中の少女(大島ミチル編曲)
ヨーロッパの舞曲風の民族音楽を思わせる曲調。
6拍子系のメロディーと、アコーディオンをふんだんに使ったアレンジが印象的。どちらかと言うと、東欧の舞曲っぽい印象を受ける。
“風の中の少女”というタイトルだが、秋の収穫祭のような村のフェスティバルで、民族衣装を着て踊っている、東欧の村の少女たちの姿が目に浮かんでくるかのよう…。
リズミカルで中々楽し気な曲ではあるが、メロディーにはどこか、スラブ的な哀愁が漂っているように感じられる。
⑦天空のオリオン(武沢豊編曲)
宗次郎さんの代表曲の一つにして人気作。コンサートでも必ず演奏される名曲。
ゆったりとした抒情的で清らかな旋律が美しく、まさに、冬の凛とした空気の中、満天の星空で一際美しく輝いている、オリオンの星々を連想できる作品。
オカリナ・ソプラノG管(高音の笛)による演奏で、高音域の澄んだ音色と曲調が見事にマッチしている。
癒し度満点のこの曲は、ヒーリング・ニューエイジ音楽の重鎮・宗次郎さんの本領発揮といったところ。
⑧白夜の森で(大塚彩子編曲)
ハープのアルペジオ(分散和音)に乗って、オカリナの音色が流麗なメロディーを奏でる。
アレンジ自体はとてもシンプルで、3曲目のアレンジと同じく、ハープを多用しているのが特徴的。
“白夜の森”がテーマということで、北欧の寒冷な空気感とともに、どこか幻想的・ファンタジックな雰囲気も感じさせるメロディーとアンサンブルが見事。
⑨リュブリャーナの青い空(大塚彩子編曲)
まるでヨーロッパの民族舞踊の曲を思わせるようなメロディーとアレンジ。躍動的な曲で、聴いていてとても楽しい作品。ヨーロッパの市場や広場などの風景に、ピッタリ合いそうな感じの曲。
ヴァイオリンも、フィドル(民族音楽でのヴァイオリン演奏)風な奏法をしているのが印象的。
コンサート時のMCでの、この曲についての説明がとても印象に残っている。
紀宮さま(黒田清子さん)が、スロベニアを訪問される際、宗次郎さんが音楽大使として同行することになり、スロベニアの首都リュブリャーナの風光明媚な様子をイメージした曲を作ろうと、事前に作曲した曲で、現地で演奏したら拍手喝采の、大盛り上がりとなった…とのこと。実際には、リュブリャーナの青い空というのを、見たことがない上で作った曲だったのですが…というオチで、会場が笑いに包まれたのを覚えている。
⑩月といっしょに(宗次郎&斎藤葉編曲)
オカリナとハープのデュオ(二重奏)の曲。どこまでも優しく、温かいメロディーと音色で、夢見心地の気分が味わえる。
月をモチーフにした曲のようだが、この曲を聴いていると、雪に閉ざされた真冬の北欧の村の民家で、暖炉の火にあたりながら、おばあちゃんが子供たちに昔話を、優しい眼差しで語って聞かせているような、牧歌的な情景が連想される。
⑪Northern Lights Fantasy(沢田完編曲)
非常に雄大なスケール感のある大曲。壮大なオーケストレーション(オーケストラ編曲)が、広大な北欧の夜空を連想させる。
アレンジ担当の沢田完さんは、前作『あゆみ』の「道行」「大空と雲と」でも、スケールの大きいアレンジを提供されておられたが、この曲も素晴らしく、まるで映画音楽のテーマ曲を思わせる、ドラマチックなアレンジとなっている。
特に中間部は、オーロラの光のカーテンをイメージできるような、音画的な描写(音楽で風景を描写すること)となっている。
宗次郎さんのオカリナの音色が、オーケストラサウンドの中でも、最大限の魅力を発揮している楽曲と言える。
<総評>
宗次郎さんのアルバムというと、どちらかと言うと、日本的なメロディーや日本的な風物・自然をテーマにした曲が多く、世間的にも、そのイメージで見られること多いと思う。
だが、本作『天空のオリオン』では、全面的にヨーロッパ、それも北欧(フィンランド)や東欧(スロベニア、スラブ)をメインモチーフに据えているのが最大の特徴と言える。
楽器も、フィンランドの民族楽器カンテレを取り入れたアレンジや、ハープを多用しており、これまでのアルバム以上に、欧州の民族曲風やファンタジックな雰囲気を堪能できる名作となっている。
中でも、コンサートで必ず演奏される「天空のオリオン」は高い人気を誇り、宗次郎さんの代表曲の一つとなった。
宗次郎さんと北欧・フィンランドとの関わりは、1994年発表のカバーアルバム『鳥の歌』に遡れる。
このアルバム『鳥の歌』で、「4つのフィンランド民謡」として、フィンランドの民謡がメドレーで収録されているが、ここでもカンテレが使用されている。その前年の1993年“水心”コンサートツアーの際も、MCでフィンランドを旅したことをお話しされ、現地の曲の紹介として先述の「4つのフィンランド民謡」を披露された。
この時分から、宗次郎さんはフィンランドに特別な愛着を持たれていたようだが、その思いが一枚のアルバムとして結実したのが、本作『天空のオリオン』だと言える。
初のヨーロッパ・モチーフのアルバムを経て、宗次郎さんの表現力・音楽性は飛躍的に広がったと言える。実際、この後しばらく、日本的なモチーフからは離れて、欧米的なモチーフによる作品が続くことになる。(北米大陸の自然をテーマにした次作『静かな地球の上で』や、オカリナによるキリスト教の讃美歌カバー『オカリナ・エチュード4~チャーチ~』など)
そういう意味でも、大きな転機、ターニングポイントと位置付けることができる、重要なアルバムである。
宗次郎さんの音楽=日本的、と思い込んでおられる方にも、このアルバムをぜひ聴いていただいて、欧風サウンドの宗次郎作品もあるということを知ってもらえればと思う。
☆宗次郎さんのYouTubeチャンネルより(公式動画)
「夢街道」(4曲目)
※アレンジは、2015年発売「40th Anniversary of Ocarina Life」バージョン
☆以下のサイトで、全曲試聴およびダウンロード購入ができます。
☆アルバム『天空のオリオン』より「天空のオリオン」を、ヒーリング・ホイッスルでカバー演奏しています。
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