宗次郎オリジナルアルバム第24作
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平城遷都1300年を迎えた奈良大和路をモチーフに、仏教や“和”の美しさをテーマに描いた傑作。
和風モチーフのアルバムの最高傑作。
発売日:2010.9.1(販売元:ユニバーサルミュージック/発売元:風音工房)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎(except 10)
編曲:蓮沼健介(except 8)
<レビュー>
①いにしえ~万葉のこころ~
前奏・イントロのベル系の音(キラキラした感じの音色)のミニマル風フレーズ(短い音型を繰り返すタイプのフレーズ)が印象的。そのフレーズにのって、オカリナが、名曲「故郷の原風景」を彷彿とさせるような、優美で日本的な素晴らしいメロディーを奏でていく。
冒頭から、宗次郎さんの持つ“和”のメロディーを凝縮したような、美しさをたたえた名曲で始まるこのアルバム。聴く者の心を、一気に古の時代の大和の国へと誘うような、魅力にあふれている。
和風宗次郎作品の最高傑作アルバムの冒頭にふさわしい、抒情的な良曲。
②古~いにしえみち~道
優美な1曲目から、うって変わって、2曲目「古~いにしえみち~道」では壮麗で雄大なサウンドを堪能できる。
アルバム・タイトルにもなっているこの曲では、中国の民族楽器、二胡・古箏・揚琴で中国のゲスト・ミュージシャンも参加し、悠久のアジアと日本の美を感じさせる曲調となっている。
まさに、中国から海を越え、仏教など様々な文化が、シルクロードの終着点・奈良の地にもたらされた歴史を感じさせる、スケール感のある作品である。
前述の民族楽器を使ったサウンドの他、パーカッション(打楽器類)も非常に効果的に配されている。編曲・アレンジも秀逸で、アジアン・テイストなニューエイジ・ミュージック(癒し系音楽)として、第一級の傑作。
③KAN-NON~観音~
奈良・斑鳩の中宮寺の国宝、如意輪観音像(弥勒菩薩半跏像)から受けた感銘をもとに、宗次郎さんが作曲された美しい曲。
静かな3拍子系のメロディーで、内省的・瞑想的な感覚に包まれている。静かに自分を見つめ直してみたい時などに、ぴったりの曲調。
実際に、中宮寺の観音像を拝観したことがあるのだが、優美なアルカイック・スマイルで知られる飛鳥時代の仏像の前にたたずんだ時の感覚を、この曲は見事に呼び覚ましてくれる。
きっと宗次郎さんも、時を越えて、人々に微笑みかけてきた仏像のお姿を思い浮かべながら、このメロディーを作られたことだろう。
④炎~求道~
・読経:日蓮宗聲明師会連合会
比叡山延暦寺の千日回峰行で知られる、高僧・酒井雄哉大阿闍梨をモチーフにした作品。
酒井大阿闍梨関連の曲と言えば、アルバム『FOREST』の名曲「道」が挙げられるが、こちらは南里高世さん作曲の作品だったので、宗次郎さんご自身の、酒井大阿闍梨への思いをもとに作られた曲としては、この「炎~求道~」ということになる。
宗次郎さんの演奏力・作曲力は、『FOREST』の頃よりも遥かに円熟しており、「道」に比べて、この曲はダイナミックさがあり、圧倒的な力がみなぎる大傑作となっている。(楽曲クオリティーは「道」を越えていると感じる)
読経を取り入れたアレンジもユニークで素晴らしく、あたかも護摩行の炎が、メラメラと燃え上がっているような光景が目に浮かんでくる。
2通りの拍子(4/4拍子と6/8拍子)が交互に現れるメロディーラインも秀逸。
3曲目が観音像だとすると、この4曲目は不動明王や蔵王権現のようなイメージ。聴いているとパワーが湧いてくる力強い曲。
⑤回想~心のふるさとへ続く道~
3拍子系の流れるようなメロディーラインが美しい。
旋律自体は、宗次郎さんの作品でよくあるタイプのメロディーラインだが、徐々に盛り上がって行く展開が見事。この曲を聴くと、吉野や高野山といった山中の巡礼道を、黙々と僧が歩んでいるような、そんな光景をイメージする。
バイオリン類の弦楽器・ストリングスのピチカート(弦を指ではじく演奏法)をベースの音にしたアレンジが、曲調にとてもマッチしている。
⑥浄土の庭
タイトル通り、枯山水や鹿おどしといった日本庭園をイメージできる作品。静寂感漂う美しいメロディーは、まさに侘び寂びの世界を感じさせる。
オカリナ・ソプラノ管(高音管)の澄んだ音色とともに、印象的な民族楽器の音色が登場するが、これは中国の古箏と揚琴。
オカリナの音色とも、とてもよくマッチしており、東洋の美を感じさせる音世界が構築されている。
⑦天青草原
シンセサイザーによる印象的なアルペジオ(分散和音)と、独特な躍動感があふれるアレンジが素晴らしい。
この曲の前後の曲が“静”のイメージなので、「天青草原」の持つ“動”の部分が良い対比を生み出している。
メロディーも和風ながら、さわやかな印象で、天を翔ける風や雲をイメージさせる。
⑧慈悲のこころ
オカリナ・ソロ(独奏)の曲。
高音域の笛オカリナ・ソプラノ管による独奏曲だが、雅楽の旋律を彷彿とさせるような、ゆったりとした高音のメロディーが朗々と響く秀作。
単音にもかかわらず、深みを感じさせるオカリナの音色と演奏は、まさに宗次郎さんの真骨頂と言ったところ。
冬の凛とした空気が漂う山奥の古寺(例えば室生寺のような)で、このサウンドが流れてきたら、間違いなく鳥肌もの、大いに感動するだろう。目を閉じて、そんな山寺の風景をイメージしながら聴くのも、味わい深い曲である。
⑨巡礼
シンセサイザーによる幻想的な雰囲気の前奏・イントロに続いて、3拍子系の力強い、印象的なメロディーがオカリナによって奏でられていく。
アレンジも、このアルバムで唯一ドラムの音が入った曲であり、巡礼の道を歩む人々の精神の力強さを、見事に表現している。
このまま、テレビのドキュメンタリー番組(例えば寺院や遍路などをテーマに扱った)のテーマ音楽としても使えそうなくらいに、印象深く高いクオリティーの作品となっている。
コンサートではあまり演奏されることがない曲だが、ぜひもっと取り上げてほしいと思う。
⑩さくらさくら
このアルバムで唯一のカバー曲。言わずと知れた日本の古謡が原曲だが、“和”の美しさをテーマにしたこのアルバムの締めくくりに、この曲を配した構成は見事である。
日本の心を具現化したかのような美を誇る、桜の花。
奈良の地に都があった古より、日本人に愛され続けてきた桜。その美しい花を描いたこの曲に耳を傾けていると、桜吹雪が舞う光景が目に浮かんでくるかのよう。
宗次郎さんによる、オカリナ・カバー・バージョンの「さくらさくら」は、オカリナ・ソプラノ管の透明感あふれる高音を存分に活かした名演奏。
とても落ち着いた、幻想的な和風アレンジが魅力的。
<総評>
『天空のオリオン』以降、テーマやモチーフ・曲調において、どちらかと言うと洋風・欧風な志向に傾いていた宗次郎さんのアルバムだが、この『古~いにしえみち~道』は、完全に“和”のテーマ性の方向へと振り切って、生み出された大傑作アルバム。
これほどまでに、全曲を和風モチーフにこだわって作られたのは、『Japanese Spirit』や『まほろば』以来となるが、日本的・東洋的なテーマのアルバムとしては、本作『古~いにしえみち~道』が最高傑作と言える。
やはり、宗次郎さんのオカリナは、和風な世界観・メロディーが最もよく合うということが再認識できる作品。
『Japanese Spirit』の総評で、宗次郎さんの“和”の響きは、雪国や山里といった素朴な日本の心を連想できると書いたが、本作『古~いにしえみち~道』は、平城遷都1300年の奈良大和路や仏教が大きなモチーフとなっていることで、“古都の雅さ”も感じさせる作風にと進化している。
2015年4月の京都・平安神宮での野外ライブでは、この『古~いにしえみち~道』からの曲をメインに据えたプログラムだった。
枝垂れ桜が咲く古都の神宮に響き渡る、宗次郎さんのオカリナ・サウンドとメロディーは、見事に会場の空気感とマッチしており、ひときわ深い感動に包まれた。(会場では、『古~いにしえみち~道』のCDも販売していたが、売り切れ状態となっていた。それほどに多くの聴衆の心を捉えたと言える。)
また、2017年6月の奈良・斑鳩コンサートでは、ゆかりの深い「KAN-NON」をご当地で聴くことができて、感慨深くとても良かったのを覚えている。
『土の笛のアヴェ・マリア』『オカリーナの森から』と、宗次郎さんの音楽は円熟度を増し続けているが、日本的なテーマの作風の曲でも、『古~いにしえみち~道』において最高のクオリティーに達したと言える。
まぎれもなく、『古~いにしえみち~道』は、和風宗次郎作品の最高傑作アルバムである。
※ちなみに、アルバム・ジャケットは、奈良県宇陀市の阿騎野の山々の写真が使われている。
世界遺産の、平城京・奈良公園周辺や吉野に比べると、知名度は下がるかもしれないが、宇陀市付近には、室生寺や長谷寺といった古刹もあり、この『古~いにしえみち~道』の世界観にぴったりの風景が楽しめる。また、ジャケット内側には、長谷寺の桜や室生寺の仏像の写真も使われている。
『古~いにしえみち~道』を聴いて、奈良県宇陀市に旅に行くのも、とてもおすすめ。
より深く、この作品の音世界を味わうことができる。
☆宗次郎さんのYouTubeチャンネルより(公式動画)
「古~いにしえみち~道」(2曲目)