宗次郎オリジナルアルバム第13作
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編曲担当の坂本昌之氏の音楽性が前面に出た曲もある、宗次郎作品の中で最もリズミカルでポップな曲調のアルバム
発売日:1995.9.20(ポリドール)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎
作曲:坂本昌之(①④⑤⑩)
編曲:坂本昌之
<レビュー>
①光の国
坂本昌之さん作曲作品。メロディーラインは日本的・アジア的だが、ドラムのビートが効いた、かなり賑やかな編曲・アレンジとなっている。
実質的には、“坂本昌之featuring宗次郎”というべき作品。
ここまで、ドラムサウンドを強調したポップな曲調は、アルバム『ハーモニー』&『ヴォヤージ』以来となる。演奏楽器も二胡(中国の弦楽器)やボイスも取り入れられ、エスノ・ポップ(民族音楽調のポップ音楽)な雰囲気が漂う。宗次郎さんのアルバムで、人の声(コーラス、歌声など含めて)が入ったのは、この曲が初めて。
自然三部作や、アコースティックで静かな宗次郎さんの作品に聴き慣れたリスナーは、初めてこのアルバムを聴いた際、賑やかでリズミックなアレンジに戸惑ってしまうかもしれない。(実際、自分も最初、戸惑い驚いたのを覚えている)
~光の国への旅~
②悲しみの星から
2曲目から4曲目は『光の国への旅』と題された組曲仕立て。
1曲目で、思い切りポップなサウンドに度肝を抜かれた方は、2曲目と3曲目の、ある意味、従来の宗次郎さんらしい静かでおとなしい曲調に、ホッとしたことだろう。
「悲しみの星から」は、そんな宗次郎さんならではのメロディーラインや、音色を堪能できる内省的な雰囲気の作品。
③月まで歩いて
個人的に、このアルバムで一番のお気に入りの曲。
まるで、グノーのアヴェ・マリアを思わせるかのような、美しいハープのアルペジオ(分散和音:ハープやギターによる伴奏でよく使われる技法)にのって、オカリナが優しく爽やかなメロディーを奏でる。
「月まで歩いて」というタイトルではあるが、優しく柔らかな月の光に照らされて、和んでいるかのような、とても穏やかな気持ちにしてくれる美しい作品。
人それぞれ好みもあるかと思うが、やっぱり自分は、こういう感じのゆったりとした、さわやかな宗次郎さんの曲が一番好きだったりする。
④光の国への旅
宗次郎さんと坂本昌之さんの共同作曲作品。約9分にも及ぶ大曲。
シンセサイザーによるミニマル風サウンド(短い音型を繰り返すタイプのサウンド)に始まり、ヴァイオリンやオカリナが短めのフレーズを繰り返しながら、基本形のベースとなる音型が移り変わっていく。後半はドラムが迫力あるサウンドを奏でて、賑やかに盛り上がって行く。
全体的には、坂本昌之さんの作風が強く出た曲と言え、特に後半は、1曲目と同じく派手目でポップな曲調となっている。
約9分という、宗次郎さんの曲の中では最も長い時間の作品ではあるが、曲の構成が多彩な感じなので、リスナーに飽きさせず、聴いていてそれほど長いとは感じない。
⑤光の花
当時隆盛を誇っていたダンスビートを、大胆に取り入れた曲。坂本昌之さんが作曲。
坂本昌之さんの作風が前面に出たダンスポップな曲で、このアルバムのみならず、全宗次郎作品の中でも、最もリズミカルでダンサブルな曲と言える。(ちなみに、宗次郎さんの曲でダンスのリズムを使った曲は、他にもアルバム『Ocarina Wind Family』の「Ocarina Dance」があるが、それよりもこちらの方が賑やかな作品となっている)
アコースティック(生楽器のサウンド)の静かで素朴な宗次郎さんの曲の方が好きな方は、このタイプの曲はちょっと苦手に思われるかもしれない。
オカリナで、こんなタイプの曲も吹けるという例としてはユニークな作品と言える。
話は変わるが、以前、何年か前に京都の西陣を通りかかった際、着物のファッションショーのBGMで、この曲が使われていた。割と派手めの曲なので、たしかにショーとかで使われても、合うかもしれないなと思った。
⑥平和の国で
民族音楽っぽいサウンド・アレンジと、6拍子系のメロディーが印象的。
最初に聴いた時は、派手な曲が多いこのアルバムの中では地味な印象で、もう一つ心に残らなかったが、聴けば聴くほどに味が出てくるスルメ曲タイプの作品と言える。
途中の、ハ長調に転調するところのメロディーが美しい。
(転調とは曲の中で基本となる調が変わること。例えばイ短調からハ長調に転調…など。転調すると曲の雰囲気に変化をつける効果がある)
⑦木かげの花
どこかフォルクローレ(南米アンデスの民族音楽)風な雰囲気の曲。
(宗次郎流フォルクローレという意味で、自分は“ソウジローレ”と呼んでいたりする)
タイトルからすると、しんみりした感じの曲を想像してしまいそうだが、なかなか賑やかで楽し気な曲である。
⑧遠い星を超えて
前奏・イントロのマリンバ(木琴)系の音が印象的。
メロディーもアレンジも、かなりポップでキャッチーな曲調を志向しているように思えるが、宗次郎さんの曲としては、やや軽薄で安直な印象を受ける。
⑨土に還る日
オカリナのみによる多重奏の曲。
このアルバムには、ドラムやビートが多く入った曲が多いので、その中でこの曲は“静”を感じられる曲として、強い存在感を発揮している。
低音管から高音管まで、色々と使われているので、様々な大きさのオカリナの音色を比較しながら聴くこともできる。
⑩紫陽花
坂本昌之さん作曲作品。「光の国」や「光の花」と異なり、この曲はしっとりとしたバラードとなっている。
雨にしっとりと濡れている、紫陽花をイメージしているかのような、しんみりとした雰囲気の曲。
⑪夢の国
このアルバムの最後をしめくくる曲だが、ドラムの音を強調した派手めのアレンジとなっている。
タイトルからすると、メルヘンチックな曲をイメージしてしまいそうだが、実際はロック・テイストな曲となっている。
2年後の1997年発売のライブ・アルバム『acostic world 42』に、同曲が収録されているが、こちらは大塚彩子さん編曲によるアコースティック・アレンジ・バージョン。個人的には、そのアコースティック版の方が好みだったりする。
<総評>
自然三部作を経て、『鳥の歌』『もうひとつのクリスマス』と2枚のカバーアルバムを発表した後に、2年ぶりに発売されたオリジナル・アルバム。
“光と陰”がモチーフとなっているようだが、『木道』以降の宗次郎さんセルフ・プロデュース・アルバムの中で、唯一、宗次郎さん以外の人(坂本昌之さん)がアルバム中、数曲の作曲を手がけている作品。
“光”を描いた曲を坂本昌之さんが(「光の国」「光の花」)、“陰”を描いた曲を宗次郎さんが(「木かげの花」「土に還る日」etc.)作曲しているのが興味深い。中でも坂本さんが作曲した、特に1曲目や5曲目は、かなりポップな曲調で、坂本昌之feat.宗次郎と言ってもいい作品。
全体的にリズミカルでポップな作風であり、ある意味、宗次郎さんのアルバムの中で最も派手なアルバムである。
宗次郎さんの普段の音楽性や作風からすると、このアルバムは異色作として強い個性を持った作品と言える。その分、“クセが強い”アルバムなので、好みは分かれる作品と言える。
これはあくまで推測なのだが、自然三部作と2枚のカバー・アルバムを一緒に創り上げた後、宗次郎さんと坂本昌之さんの間で、表現したい音楽の方向性や音楽性に相違が出てきたのではないかと思う。そういった齟齬から、本作を二人でタッグを組む最後の作品と位置づけ、今までの感謝も込めて、宗次郎さんが坂本さんに数曲作曲を任せて、編曲も含めて、ある程度自由に作ることを認めた可能性があるのではないだろうか。
真偽のほどは定かではないが、本作を最後に、その後二人が一緒に仕事をすることはなかった。
ちなみに、宗次郎さんの元を離れた坂本昌之さんは、後に、主にJ-POPのアレンジャーとして活躍し、2004年には、平原綾香さんの「Jupiter」で、日本レコード大賞編曲賞を受賞された。
☆以下のサイトで、全曲試聴およびダウンロード購入ができます。