宗次郎さんの9作目のアルバムとなる『フレッシュ・エアー』。
実はこの『フレッシュ・エアー』と全く同じ曲収録のアルバムが存在する。タイトルは『組曲・日本の四季』。
サウンドデザインは、1990年に『イメージス』と並行して、『日本のうた こころのうた』『世界のうた こころのうた』という、宗次郎さんのカバーアルバムを制作した。
タイトル通り、日本や世界の名曲を、宗次郎さんのオカリナによるカバー演奏を収録、CDとして発売したものだ。
これとは別に、『こころのうた』CD10枚組セットとして、全161曲収録の完全版BOX商品を、日本音楽教育センター(現ユーキャン)から、通信販売限定商品として売り出した。(市販品の『日本のうた こころのうた』『世界のうた こころのうた』は、この通販商品からの一部ということになる)
この10枚組通販商品『こころのうた』の第10集が、『組曲・日本の四季』というアルバムである。
この通販BOXの解説書には、こう書いてあった。
“第10集『組曲・日本の四季』は、この企画のために新たに作られたオリジナル・アルバムである”
市販では入手できないという、プレミアム性を匂わせるような文面と言える。
ところが、1991年8月25日に、宗次郎オリジナル・アルバム『フレッシュ・エアー』として、サウンドデザインより一般発売される。
収録曲は、『組曲・日本の四季』と全く同じで、1曲目と10曲目のタイトルを変更し、別アレンジで市販されている。
『組曲・日本の四季』1曲目の「序章」を「インディゴ・ブルー」に、10曲目「終章」を「フレッシュ・エアー」というタイトルで。
また、『組曲・日本の四季』ではシンセサイザーをメインにしたアレンジだったのが、『フレッシュ・エアー』では、ピアノやギターといったアコースティック楽器(生楽器)をメインにしたアレンジで、レコーディングされている。
作品のレコーディングに関しては、『組曲・日本の四季』が先だったのか、『フレッシュ・エアー』が先だったのか、はっきりとは分からない。だが、アレンジが少し違うという点を除けば、曲のメロディーや構成は全く同じであり、少なくとも、通販BOX版『こころのうた』解説書の、“この企画のために作られた”という触れ込みは、嘘だったことになる。
また、『フレッシュ・エアー』発売日の1991年8月25日という時期は、同年10月10日に発売が迫っていた、初のセルフ・プロデュース・アルバム『木道』の完成に向けて、宗次郎さんは制作に集中しておられたはずで、すでにサウンドデザインからは独立し、ポリドールへの移籍契約を済ませていたものと推測できる。
つまり、『フレッシュ・エアー』は、宗次郎さんご自身が関わっていない、ノータッチのところで発売されたアルバムなのではないだろうか?
一度は、宗次郎さんは、『組曲・日本の四季』のシンセサイザー・アレンジ、もしくは『フレッシュ・エアー』のアコースティック・アレンジのどちらかの伴奏で、オカリナの演奏を録音したはずだが、宗次郎さんのオカリナ・パートの音をそのまま残して、どちらかのアルバムは伴奏部分を再録音し差し替えた上で、CD化されて売られた物であると思われる。(たぶん『フレッシュ・エアー』の方が後ではないかと推測している)
その辺りのことを考えると、アルバム『フレッシュ・エアー』には、どうしても“大人の事情”が見え隠れする。
『イメージス』のレビューの総評にも書いたが、宗次郎さんがサウンドデザインから独立し、ポリドールに移籍した際の経緯は、調べても情報が見つからず、触れてはいけないタブーなことなのかもしれないので、書くのはこれくらいにしておこうと思うが、アルバム『フレッシュ・エアー』もしくは『組曲・日本の四季』は、少なくとも前作『イメージス』よりもクオリティーは高く、良曲が収録されているので、多くの人に聴かれることなく、埋もれて行ってしまったことは不憫である。(さらに言うと、『フレッシュ・エアー』のアレンジよりも、『組曲・日本の四季』のシンセサイザー・アレンジの方がクオリティーが高い)
その後、『フレッシュ・エアー』を除く、サウンドデザイン時代のアルバムは、ジャケットをリニューアルした上で再発売されたが、『フレッシュ・エアー』は再発売されることはなかった。
『組曲・日本の四季』に関しても、現在ではオークションなどで見つけるか、運よく中古店などで見つける他には入手方法はない。
『フレッシュ・エアー』のレビューは、『組曲・日本の四季』でのアレンジとの比較・相違も含めて、書きたいと思う。