宗次郎オリジナルアルバム第23作
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2008年に茨城県常陸大宮市に誕生した、宗次郎さんの新たな拠点“オカリーナの森”にて制作された、最高傑作アルバム。
森の小さな生き物から、この星の大自然まで、深い愛情を込めて作られた珠玉のメロディー。宗次郎作品の最高峰。
発売日:2009.7.22(販売元:ユニバーサルミュージック/発売元:風音工房)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎(except 9)
編曲:小林健作(except 3)
<レビュー>
①小鳥たちの朝
編曲・アレンジ担当の小林健作さんによる、美しいアコースティック・ギターの伴奏にのって、オカリナ・ソプラノ管(高音管)の高く澄んだ音色の愛らしいメロディーが流れていく。
まさにタイトル通り、森の小鳥たちがさえずりあっているかのような、さわやかで可愛らしい雰囲気の曲。
同様のモチーフの曲としては、過去に、アルバム『風人』の「鳥たちの森で」があるが、そちらはシンセサイザーなど色んな楽器を使ったアンサンブルだったのに対し、この「小鳥たちの朝」は、ギターをメインに据えて、生楽器・アコースティックな響きを前面に出した作風となっている。
宗次郎さんのオカリナ演奏も、歯切れのよい見事な奏法で、メロディーを歌いあげている。
②森に還る
とても穏やかで、優しいメロディーが印象的な美しいバラード。
メロディーライン自体は、アルバム『木道』の「安堵の風景」と、ちょっと雰囲気が似ているように感じる。シンセ・コーラスの音(合唱の声を思わせる雰囲気の音色)を使ったアレンジも相まって、とても安らかなサウンドが展開される。
胎教にもピッタリな、ヒーリング感満点のオカリナ・サウンドとメロディーは、まさに宗次郎さんの音楽の真骨頂と言える。
宗次郎さんご自身も、この曲がお気に入りなのか、コンサートで演奏される率も高い。
③森のこだま
オカリナ・ソプラノC管(高音管)によるオカリナの独奏・ソロ曲。
森を吹き抜けて、青く澄んだ空に吸い込まれていくかのような、透明感あふれる伸びやかな音色が素晴らしい。
途中、まるで小鳥のさえずりを思わせるような、速いパッセージが入るが、ゆったりとした伸びやかなメロディーとの対比が、これまた素晴らしい。
オカリナのソロ曲としては、ベスト1級の名曲。
この曲もまた、コンサートでよく演奏される。
④こだまが風になって
とにかく爽やかで、めちゃくちゃカッコいい曲!
アコースティック・ギターの躍動的な伴奏やリズムにのって、オカリナが、シンコペーション(リズム・拍の強弱に変化をつける技法)を多用した、一度聴いたら強く印象に残る、親しみやすい素晴らしいメロディーを奏でていく。リズミックなタイプの宗次郎さんの曲での最高傑作。全アルバムの全作品を通しても、最もお気に入りの作品の一つ。
ボタン・アコーディオン(アコーディオンの一種)を使ったアレンジも秀逸で、アコースティック・サウンドを堪能できる。
リズムの細かい切り替えも見事なアレンジとなっている。
雰囲気的に、アイリッシュ音楽(アイルランドの音楽)など民族音楽の、ダンス曲が好きな方にもおすすめの作品。
⑤土の道
ホ短調の静かなメロディーが、土の道でひっそりとたたずんでいるかのような雰囲気を醸し出す。
これまでの宗次郎さんのアルバムにも度々あった、内省的・沈思するような曲調ではあるが、多重録音によるオカリナの対旋律を使ったアレンジが素晴らしい。
土の道に裸足で立った時のような、まさに“土”を肌で感じているかのような、宗次郎さんの演奏ならではの、深みのある曲と言える。
⑥森の舞曲
スタッカート(音を短く切って跳ねるような感じを出す演奏法)を多用したメロディーラインが印象的な曲。タイトル通り、森の妖精たちが踊りを踊っているかのような、楽しげな舞曲となっている。
一旦、曲が終わった後に、手回しオルガン風アレンジの可愛らしいメロディーが流れてくる構成も面白い。
とてもメルヘンな雰囲気を楽しめる作品となっている。
⑦海を想う
ハープの音色をふんだんに使ったアンサンブルが美しい曲。
ゆったりと3拍子系のメロディーで、穏やかな海の波に揺られているかのような気持ちにしてくれる。
宗次郎さんの伸びやかなオカリナ・サウンドと、ストリングス(バイオリン類の弦楽器アンサンブル)の柔らかなサウンドとが相まって、とても広がりを感じらせる音世界が展開される。
前作『土の笛のアヴェ・マリア』の「至福の海」も、“海”をテーマにした素晴らしい名曲だったが、この「海を想う」もまた、透明感のある美しいメロディーの良曲となっている。
⑧大地のうた
このアルバムの中で、最も重厚でスケール感のある作品。
イントロからの、ティンパニ(低音域の打楽器)&ストリングスの重厚な響きと、それに呼応するかのようなオカリナ・サウンドが圧巻。そのあとに続く、ダイナミックで疾走感のある楽曲展開が素晴らしい。
メロディー・アレンジ・サウンド・演奏、全てが一体となって、力強い大地の姿を描き切っている傑作。
非常にシンフォニック(オーケストラ的サウンド)でパワフルな作品であり、このようなダイナミックな表現もオカリナで奏でられる、宗次郎さんの音楽性の幅広さを感じることができる。
⑨心安らげ幸せなものたち
原曲は、イギリスのクリスマス・キャロル「God Rest You Merry, Gentlemen」(日本では、讃美歌「世の人忘るな」として知られる)。クリスマスに歌われることが多い曲だが、この美しいメロディーを、割とゆっくりめのテンポで、オカリナで優しく奏でられている。
森に始まり、海や大地に想いを巡らせた、このアルバム『オカリーナの森から』。
終盤では、“いのち”がテーマになっていると言える。
そこで、このアルバム唯一のカバー曲として、クリスマスキャロル・讃美歌が取り上げられているのは、宗次郎さん流の“生命讃歌”をより深く表現することに、彩りを添える意図も込められているように思える。
⑩この星に生まれて
ゆったりとした、温かく優しいメロディーが魅力的な美しいバラード曲。
宗次郎さんの作品に比較的よくある演奏法で、1コーラス目と2コーラス目とで、同じメロディーをアルト管(中音域の笛)からソプラノ管(高音域の笛)に持ち替えて吹くというテクニック。
1コーラス目をアルト管、2コーラス目をソプラノ管で吹くことで、曲の後半を1オクターブ上げて高い音域で演奏し、曲の高揚感を高めるという効果を出している。
この曲でも、この方法が使われており、オカリナの高音域の音をよく活かしたアレンジとなっている。美しいメロディーと相まって、瑞々しさと透明感あふれる音色を堪能することができる。
⑪新たないのち
循環コード(パッヘルベルのカノンなどで使われるコード進行)による、楽しげなアレンジが素晴らしい。
メロディーもとても可愛らしい雰囲気で、いのちの芽生え・誕生の喜びを曲からも感じられる。シンプルな構成ながら、覚えやすく親しみやすいメロディーで、強く印象に残る作品と言える。
⑫森に還るⅡ~duo for Ocarina and Piano~
2曲目「森に還る」の、オカリナとピアノの二重奏・デュオによるアコースティック・バージョン。
元々穏やかな曲調ではあるが、2曲目に比べて、よりシンプルなアレンジとなったことで、メロディーラインの美しさが際立っている。
子守歌を聴いているかのような、深い安らぎを感じることができる。2曲目が、暖かな日差しに包まれた陽光の森のイメージだとすると、こちらは静かな星空のもとの月光の森のイメージ。
月光の森と言うと、アルバム『FOREST』に「ムーン・ライト」という曲があるが、この曲と雰囲気が近いように思う。
思えば、『FOREST』も『オカリーナの森から』も、蓮沼健介さんがピアノ・キーボードで参加されており、22年の時を越えて、息のあったアンサンブルが再び収録されることとなった。蓮沼さんは現在も、宗次郎さんのコンサートにピアニストとして参加されておられる。
<総評>
このアルバムは、2008年夏に完成した、宗次郎さんの新たな活動拠点“オカリーナの森”で制作された作品である。
“オカリーナの森”は、元々の宗次郎さんの活動拠点である自宅にほど近い、茨城県常陸大宮市の山中にあり、オカリナ製作に必要な設備の他、交流館、録音スタジオ、野外ステージ、農園などから構成された場所となっている。(詳しくはこちら→http://sojiro.net/contents/ocarina.html)
まさに、宗次郎さんの長年の夢を体現したような場所と言えるかもしれない。そのような素晴らしい環境下で生み出された本作は、名実ともに宗次郎さんの最高傑作と言えるクオリティーを誇っている。
これまでに培ってきた宗次郎さんの音楽と、“オカリーナの森”が見事な化学変化を起こして、この上ない至高の美しさをたたえた作品にと仕上がっている。
前作『土の笛のアヴェ・マリア』のレビューでも、宗次郎さんの音楽が円熟期に入ったと評したが、本作は、メロディー・演奏・サウンド・楽曲構成と全てが優れており、円熟度を増した宗次郎さんの音楽を堪能できる、最高峰の作品と言える。
現在のコンサートの曲目でも、定番となった曲が収録されており、宗次郎さんの音楽を語る上で必聴の重要なアルバムである。
また、宗次郎さんのCDを初めて聴く、または買うという方にも、この作品を強く推すことができる。言い換えれば、宗次郎さんの音楽に初めて触れるという方でも、このアルバムを聴けば間違いはない。とにかくおススメの作品。
宗次郎さんのすべてが結実した、最高のアルバムである『オカリーナの森から』。
この“オカリーナの森”で生まれたアルバムとしては、この後『オカリーナの森からⅡ』も制作されたが、ぜひともシリーズ化して、3作目、4作目…と続けて行ってほしいと切に願っている。
※ちなみに、本作のアレンジはギタリストの小林健作さんが担当。ピアノでは先述の蓮沼健介さんが参加し、現在のコンサート活動でも共に演奏しておられるトリオが、このアルバムで本格始動したと言える。蓮沼さんは次作『古~いにしえみち~道』、小林さんは次々作『オカリーナの森からⅡ』のアレンジも担当しておられ、宗次郎さんは最高のパートナーたちを得たと言える。
※アルバム・ジャケットについては、宗次郎さんのアルバムは写真を使ったものがほとんどだが、本作では珍しくイラストによるジャケットとなっている。オカリーナの森を描いたもので、内側には、オカリナを吹く宗次郎さんのイラストが描かれており(よく似ている!)、目でも楽しめるアルバムとなっている。
☆宗次郎さんのYouTubeチャンネルより(公式動画)
「森に還る」(2曲目)