宗次郎オリジナルアルバム第25作
※タイトルをクリックすると、Amazonの商品ページに飛びます
“オカリーナの森”で制作された、宗次郎さんの傑作アルバムシリーズ『オカリーナの森から』第2弾。フォルクローレやフラメンコのリズムなどを取り入れた曲もある、より豊かな表現性で描かれた傑作アルバム。
発売日:2013.5.22(販売元:ユニバーサルミュージック/発売元:風音工房)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎
編曲:小林健作
<レビュー>
①天上の祈り
静かな高音域のストリングス(バイオリン類の弦楽器アンサンブル)のハーモニーと、ハープの美しいアルペジオによる前奏・イントロに続いて、3拍子系の清らかなメロディーが展開される。
このメロディーラインが、オカリナ・ソプラノG管(高音域の笛)の音色と非常にマッチしており、この上なく美しい。
まさに、天上の音楽を聴いているかのよう。
曲の前半は、ゆるやかな3拍子の曲調だが、後半に入ると、躍動的なスケール感のある音楽が展開される。後半の動きのあるメロディーも大変素晴らしく、パーカッション(打楽器)やディストーション・ギター(エレキギター)を取り入れた編曲・アレンジも見事。ストリングスとの絶妙なアンサンブルを堪能することができる。
前半部と後半部の、大きく2つの部分から成る曲だが、静と動の対比となっており、楽曲構成も秀逸な傑作。このアルバムで一番のお気に入りの曲。
②空ノ道
軽やかで流れるような伴奏とともに、明るく爽やかなメロディーをオカリナの音色で楽しめる作品。
伸びやかなAメロ(主旋律で1番初めの部分)と、細かい音型を繰り返すBメロ(曲の構成で、主旋律の2番目の部分)との対比が見事。特にBメロは、オカリナ多重奏による輪唱(カエルの歌のような追いかけ合いをする演奏)のような形式となっており、ユニークなアレンジと言える。
春の風に吹かれているかのような、ほのぼのとした雰囲気が楽しめる曲。
③星空の丘
星と月をテーマにした曲は、これまでにもいくつかあったが、この「星空の丘」の曲はゆったりとしたメロディーラインが印象的な作品。
満天に輝く星空、天の川、流れ星…そんな光景を深呼吸しながら見上げているような、そんな気持ちになれる曲。
まるで、宮沢賢治の物語の世界に飛び込んだかのような、そんなファンタジー性をも感じさせる曲。
チェレスタ(鉄琴のような音色の鍵盤楽器)の音を隠し味的に使ったアレンジが味わい深い。
④春の扉
スペインの民族舞踊・フラメンコのリズムを取り入れた曲ではあるが、曲の印象としては、スパニッシュやラテン的な趣きは特になく、メロディーも、リズミック・躍動的なタイプの宗次郎さんの曲の典型といった印象。
このアルバムの中で、最もアップテンポでにぎやかな曲ではあるが、生楽器・アコースティックな響きを見事に活かしたアレンジなので、うるさすぎず、絶妙なバランスを保っている。(ギター・サウンドも素晴らしい!)
生命が芽吹く、春の喜びを感じさせる作品で、聴いているとワクワクした気持ちが湧いてくる。とてもカッコいい良曲。
⑤神逢瀬
ピアノとシンセサイザーのみというシンプルな伴奏に、宗次郎さんの澄んだオカリナ・サウンドが、ゆったりとした神秘的な雰囲気のメロディーを奏でる。静けさを感じさせる音楽。
曲のイメージとしては、神秘性が漂う静謐な森のような、深山幽谷の世界で聴こえてくる音を聴いているような…、そんな不思議で深遠な世界観を感じさせる曲。
ちょうど、宮崎駿さんのジブリのアニメ映画に出てきそうな、森の情景を思い浮かべられる。(例えば『もののけ姫』の“シシ神の森”のような…)
ちなみに、話は変わるが、宗次郎さんとジブリの音楽については、「もののけ姫」と「いつも何度でも」(千と千尋の神隠し・主題歌)の2曲が、『オカリナ・エチュード5~スクリーンミュージック~』にてカバー演奏され、CD化されている。
宗次郎さんのオカリナの音色や音楽のテーマ性からすると、ジブリ作品ともとても相性が良さそうに思えるのだが、今のところ、CD化されたのはこの2曲のみである。個人的には、宗次郎さんが演奏する「風のとおり道」(となりのトトロ・挿入曲)や「君をのせて」(天空の城ラピュタ・主題歌)なども、ぜひぜひ聴いてみたいものである。
⑥泉のほとり
ビブラフォーン(鉄琴)やマリンバ(木琴)とのアンサンブルが印象的。
曲調・メロディーは、宗次郎さんの得意中の得意の、日本のわらべうた風の曲。わらべうたの中でも、2人組で遊ぶ手遊び歌(“せっせっせーのよいよいよい”といった感じの)フレーズを彷彿とさせる、オカリナのメロディーが愛らしい。
とても牧歌的な雰囲気を楽しめる作品。
決して派手な曲ではないが、こういった素朴さあふれる作品では、宗次郎さんの音楽性やオカリナの音色の魅力が、最大限に引き出されているように感じられる。
⑦風のひびき
・ケーナ&サンポーニャ:Sergio Aucca Surco(LOS AWKIS)
・チャランゴ&ギターラ他:Irich Montesinos Durand(LOS AWKIS)
宗次郎さんは、南米アンデスの民族音楽フォルクローレがお好きなようで、これまでのアルバムにも度々、フォルクローレ風のメロディーや曲調が見受けられた。だが、あくまでフォルクローレの雰囲気を匂わす感じに留まっていたが、25作目となる本作で、初めて完全なるフォルクローレ・スタイルの楽器構成&アレンジによる作品が生み出された。それが、この曲「風のひびき」である。
フォルクローレ・グループ“LOS AWKIS”からお二人が、ゲストミュージシャンとして参加され、宗次郎さん作曲のメロディーも、相当フォルクローレを意識して作られたものと思われる。知らない人が聴いたら、多分この曲はフォルクローレの曲だと考えるだろう。
それほどに、本格的にフォルクローレを志向した作品となっている。
特筆すべきは、宗次郎さんのオカリナと、アンデスの縦笛ケーナの共演である。
オカリナとケーナの音色は、相似性・親近性が高いためか、これまでのアルバムでケーナが使われることはなかったが、本作で初めてケーナとの共演が実現した。その意味でも、非常に価値の高い曲であり、オカリナとケーナ両方の音色を楽しめる素晴らしい曲である。
⑧聖なる水
オカリナ・ソプラノC管(高音管)によるソロ曲。ソプラノ管ならではの透明感のある澄んだ音色が、水の清らかなイメージを彷彿とさせる。同様の曲として、アルバム『水心』の「水心」が挙げられるが、ソプラノC管=水のイメージを奏でるのにふさわしい、という宗次郎さんの考えが反映されているのかもしれない。
実際、「水心」と「聖なる水」は曲調がよく似ており、ゆったりとしたメロディーが、水の幻想性を感じさせる。
静寂の水面に、一滴の水滴が落ちて波紋が広がっていくような、そんな光景をイメージして聴くことができる。
⑨甦りの詩
重厚でスケール感のある、力強いメロディーとサウンドが印象的。このアルバムの中で、最も“祈り”といったテーマ性やメッセージ性が感じられる作品。
“甦りの詩”というタイトルに込められた想いとは…。
これはあくまで推測なのだが、前作と本作の間に発生した、東日本大震災のことが、ある程度関連しているのではないだろうか。2011年3月11日の東日本大震災では、オカリーナの森がある、茨城県常陸大宮市でも震度6強の揺れを観測しており、宗次郎さんご自身も、震災の揺れや被害を間近に見られて、心を痛められたことだろう。震災からの復興の祈りを、音楽に込めたいと思われたかもしれない。
この曲のタイトルや曲調から、ふと、そんな気がしてしまう。いずれにせよ、この曲を聴く際には、作品に込められた宗次郎さんの“祈り”を強く感じることができる。
⑩母の歌
宗次郎さんの作品中、屈指の感動作。コンサートでもよく演奏され、その際のMC(曲間のトーク)で必ず紹介されるエピソードがある。
音楽家として活躍し、今までに数多くの曲を作ってこられた宗次郎さんだが、母親のために曲を作ったことがなく、入院していた年老いた母に捧げるために作曲することを考えられた。その母に聴いてもらおうと、デモテープに録るところまで仕上がっていたものの、残念なことに間に合わず、この世を去ってしまい、聴いてもらうことは叶わなかった…というエピソード。
実家が農家だった宗次郎さんは、麦わらを背負い、畑仕事に精を出すお母様の姿を見て育たれたことだろうと思う。そんな母への感謝の気持ちが込められた曲で、どこまでもあたたかく優しいメロディーと、静かにそして美しいオカリナの音色に、宗次郎さんの想い出がこめられていると言える。名曲。
⑪光は東方から
オカリナの二重奏とチェンバロ(弦をはじいて音を出す、ピアノの先祖のような楽器)による作品。
とてもシンプルなアレンジながら、オカリナの音色の美しさを存分に堪能できる素晴らしい作品。
どこか、讃美歌を思わせる安らかな雰囲気のメロディーだが、出だしの所のメロディーが、少し「フィンランディア」っぽい印象も受ける。
オカリナとチェンバロのアンサンブルの曲は、これまでのアルバムには無かった組み合わせだが、とても音色がマッチしており、相性がとても良いと言える。そんな、アンサンブルの意外性も楽しめる作品。
聴いていて、とても優しい気持ちになれる音楽。宗次郎さんの音楽の醍醐味である。
<総評>
前作『古~いにしえみち~道』からは3年ぶり、また、『オカリーナの森から』1作目からは4年ぶりとなったアルバム『オカリーナの森からⅡ』。
1作目が、森やこの星の大自然、そして生命をテーマにしていたのに対し、2作目では“生命”と“祈り”が大きなテーマとなっている。
全体的な作風は、1作目の雰囲気を受け継ぎつつ、より深く多彩な表現が行われている。
例を挙げると、「春の扉」のフラメンコ・リズムや、「風のひびき」のフォルクローレ・スタイルのアレンジ、「甦りの詩」の持つ深いテーマ性などが挙げられる。
円熟期を迎えた宗次郎さんの音は、『オカリーナの森から』『古~いにしえみち~道』そして『オカリーナの森からⅡ』と、一作ずつ積み重ねられる度に、より磨きがかかってきていることが感じられる。また、「母の歌」のように、宗次郎さんご自身の心情が深く投影された作品も生み出され、今までのアルバム以上に深い感動が得られる作品となっている。
『オカリーナの森からⅡ』は、1作目と同等の素晴らしい傑作である。
ぜひとも、“オカリーナの森から”はシリーズ化して、3作目、4作目…と続けて行って欲しいと強く願っている。宗次郎さんの代表作、そしてライフワークとなることは間違いないだろう。
現時点(2018年)、『オカリーナの森からⅡ』は、宗次郎さんのオリジナル・アルバムとしては最新作であり、すでに発表から5年の月日が経っている。
宗次郎さんが4年以上も、オリジナル・アルバムを発表しておられないのは初めてのことであり、ファンとしては新作が待望される。だが、昨今の音楽業界を取り巻く環境の変化、とりわけCD不況の状況を鑑みれば、インスト・ヒーリング・ニューエイジ音楽という、必ずしも飛ぶように売れるというわけではない音楽ジャンルのCDを、レコード会社側が制作することを躊躇している可能性もある。
宗次郎さんのようなビッグ・ネームのアーティストであっても例外ではないのかもしれない。(同様に、宗次郎さんと同じく、喜多郎さんや姫神(2代目)といった、名の知られたニューエイジ音楽のアーティストであっても、最近のアルバム発売数は減少傾向にあるし、CD店のヒーリング・ニューエイジ音楽のコーナーは縮小される一方である)
そんな中、2015年には大手レコード会社を介さずに、宗次郎さんの個人レーベル・風音工房の自主制作盤として、新録音によるベスト・アルバム『40th Anniversary of Ocarina Life』が発表されている。販売場所はコンサート会場と公式サイトで、という限定盤ではあるが、アルバムとして発売されている。
宗次郎さんのオリジナル・アルバムの新作が、今後出るとしたら、このような形になってくるのかもしれない。
だが、宗次郎さんの新たなCDが出ることは、どのようなスタイルであっても喜ばしいことであり、全国・全世界の宗次郎ファンは、宗次郎さんの新たな作品を待ち望んでいることだろう。
宗次郎さん、新作を楽しみにしております!今後も応援しております!
(追記)その後、2018年8月の岐阜県・根尾の淡墨桜コンサートに行った際、新作の告知があり、さらに制作中のニューアルバムより5曲も新曲が披露されました。
新作は2019年に発表予定で、タイトルは『昔むかしの物語を聴かせてよ』。“物語”は“はなし”と読みます。
オリジナルアルバムとしては、「オカリーナの森からⅡ」以来6年ぶりとなり、まさに待望の新作となります。
根尾のコンサート時に披露された新曲5曲とも、とてもクオリティの高い楽曲ばかりでした。ニューアルバム『昔むかしの物語を聴かせてよ』は、かなりの傑作になりそうです。発売が楽しみなニューアルバム。また入手しましたら、レビュー記事を書こうと思います!
☆宗次郎さんのYouTubeチャンネルより(公式動画)
「天上の祈り」(1曲目)