◎宗次郎アルバム第20作『イアイライケレ』レビュー

宗次郎オリジナルアルバム第20

『イアイライケレ』

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アイヌや奄美、ケルト・アイリッシュといった民族音楽や民族楽器を取り入れ、自然と共に生きる地球上の先住民族へのリスペクトを込めた、ワールド・ミュージック(民族音楽)風味の作品。

 

発売日:2002.9.25(ユニバーサルミュージック)

 

プロデュース:宗次郎

作曲:宗次郎

サウンドプロデュース・編曲:井上鑑

 

 

<レビュー>

①イアイライケレ

feat.シークレット・ガーデン:フィンヌーラ・シェリー(ヴァイオリン)、パット・ブローダーズ(イリアン・パイプス、ホイッスル)

 iyayraykere”(アイヌ語で「ありがとう」)に由来する曲名。宗次郎さんのアルバムではイアイラ~となっているが、実際の発音はイヤイラ~に近いらしい。

 アイルランド&ノルウェーのニューエイジ・ミュージック・ユニット“シークレッド・ガーデン”より、ヴァイオリンのフィンヌーラ・シェリーと、イリアン・パイプス(バグパイプの一種)のパット・ブローダーズが参加。

 宗次郎さん作曲による、民族音楽的な美しい旋律に、井上鑑さんが見事なアレンジ・編曲を施し、これまでにないほどのワールド・ミュージック・テイストなサウンドが展開されている。

 聴き応えたっぷりの良曲。

 

②サーメへの讃歌

 サーメ(またはサーミとも)とは、北欧スカンジナビア北部ラップランドの先住民族。アイヌ民族との交流も持っておられるとのことらしい。

 曲自体のメロディーは、全体的には北欧と言うよりは、むしろ南米アンデスの民族音楽・フォルクローレ風な印象を受ける。ただ、イントロ・前奏部のゆったりとしたオカリナ・ソプラノC管(高音管)によるフレーズは、‘94年発売のカバーアルバム『鳥の歌』収録の「4つのフィンランド民謡」の3曲目・オカリナ・ソプラノ管ソロのフレーズを、彷彿とさせる雰囲気があり、少なからずフィンランド音楽の影響が出ているのかもしれない。

 中間部の、リズムが変わりトラッドな感じ(より民族音楽色が強い感じ)になる所がカッコいい。

 

OIWAKE

・ムックリ:Rekpo

 アイヌの民族楽器・口琴のムックリが取り入れられたアレンジが印象的。

 曲調は、アルバム『Japanese Spirit』の曲を彷彿とさせるような、日本の民謡調のメロディー。タイトルも追分を意識してつけられたものと思われる。

 ムックリとオカリナのアンサンブルというのは、おそらく他に類がない楽曲なのではないだろうか。非常にユニークなサウンドの曲となっている。

 

④ヒンナー・ヒンナー

・ウポポ:Rekpo&田中紀子

 “Hinna Hinna”(アイヌ語で食事に感謝する言葉)に由来する曲名。イントロの、アイヌ語による歌ウポポ(アイヌの伝承歌)の響きがとても印象的な作品。

 中間部とエンディングの、ウォーキング・ベース風(ベースの音がまるで歩くように、上下にポンポンポンポンと動くこと)のアレンジが面白い。複数のオカリナによる多重録音かと思われるが、他のアルバムではあまりなかった表現と言える。

 食事を囲み、歌ったり踊ったり…そんな宴の様子が目に浮かんでくるような、温かみを感じられる曲。

 

⑤よいすら節~UNARIKAMI

・ヴォーカル:朝崎郁恵

 奄美民謡歌手の朝崎郁恵さんが参加。よいすら節とは、奄美や沖縄に伝わる島唄の一つらしい。

 かなりゆったりとした幻想的な曲調で、シンセ・パッド(フワ~とした感じの長い音)の包み込むようなサウンドにのって、朝崎さんの朗々とした唄声が響いていく。その唄に耳を傾けていると、はるか太古より、海や島を愛して生きてきた人々の魂が伝わっているかのような、霊歌・ブルースであると感じられる。

 宗次郎さんのオカリナも途中で入るが、この曲においては、主役は朝崎さんの島唄であると言える。

 

⑥月とオリオン

 月をテーマにした曲は、これまでの宗次郎さんのアルバムに数多くあり、またオリオンと言えば、名曲「天空のオリオン」が思い浮かぶ。

 その辺りから、この曲のタイトルを見ると、ゆったりとした曲調を連想しそうだが、なかなかベース音や力強いビートによる、躍動感・グルーブ感のあるアレンジとなっている。

 メロディー自体はゆったりとした感じで、リズム楽器も決して激しいわけではないのだが、独特なリズム感とノリを感じられる作品。

 「天空のオリオン」が北欧フィンランドの星空だとすると、こちらは縄文の星空といった感じの、より土俗性・民族性が前面に出た作品と言える。

 

Beautiful Hill

feat.シークレット・ガーデン:フィンヌーラ・シェリー(ヴァイオリン)、パット・ブローダーズ(イリアン・パイプス、ホイッスル)

 アイヌや奄美といったモチーフの曲が続いてきたアルバム『イアイライケレ』。ここで、7曲目と8曲目は、アイリッシュ・ケルトがモチーフの曲となっている。(ケルトの代表的な地域:アイルランド、スコットランドなど)

 ケルトの文明も、縄文と同じく自然崇拝を大切に守ってきた文化だが、そんな共通性を宗次郎さんも感じ取られて、このアルバムで取り上げられたのかもしれない。

 とは言え、アイリッシュの伝統音楽そのものというわけではなく、あくまで宗次郎さんが思い描き、イメージしたケルトの世界を曲にした作品と言える。

 この「Beautiful Hill」では、ゆっくりめの3拍子の牧歌的なメロディーが印象的で、アイリッシュの民族楽器イリアン・パイプスの音も、効果的に使われている。

 アイルランドの緑の草原・大地を思い浮かべながら聴くと、とても心地よい。

 

The Long And Irish Road

 宗次郎さんとケルトのミュージシャンとの関わりを挙げると、このアルバムの前年発表の『オカリナ・エチュード4~チャーチ~』と、翌年発表の『オカリナ・エチュード5~スクリーンミュージック~』において、世界的な人気を誇る、アイルランド・ケルトの歌姫エンヤの曲をカバー演奏し、収録しておられる。

 『イヤイライケレ』は、ちょうどその間となったわけだが、少なからずエンヤ・メロディーの影響もあるかもしれない。

 特にAメロ(主旋律の中で1番目に来る部分)は5音音階(ドレミソラ等の5音から成る音階)によるゆったりとしたメロディーで、うまく宗次郎さん流のケルト音楽にと昇華させていると言えるだろう。

 アレンジはピアノとストリングスを主体とした、生楽器のアコースティック感のあるアレンジで、隠し味的に使われるティンパニ(低音域を奏でる打楽器)の音を、見事に配した編曲となっている。

 郷愁と雄大さを合わせ持った良曲。

 

⑨カ・チン・チェラ

 アルバムの曲名表記は「カ・チン・チェラ」だが、おそらくブータンの言語ゾンカ語の“Kadin chela”(カディン・チェラ:ありがとうの意)のことを表しているものと思われる。

 様々なパーカッション・打楽器の音を使ったアレンジがユニークで、特に金属系の打楽器の音が印象的。このアルバムの中で、もっともエスニックな雰囲気の作品。

 独特なリズム感のある曲だが、終盤のフィルイン(曲中でリズムのパターンが一瞬変わること)的にリズムが変化するところが、見事で素晴らしい。

 

⑩イアイライケレ2~縄文の夢~

・ボイス:おおたか清流&福岡ユタカ

 1曲目とメロディーラインは同じだが、ヴァイオリンやイリアン・パイプスだったパートを、ヴォーカリストおおたか清流さん達によるボイスを使ったアレンジとなっている。

 縄文というキーワードと共に、アイヌ語?(もしくは縄文語?)と思われるヴォイス・サウンドを使ったアレンジは。どこか姫神(シンセサイザー奏者・星吉昭さんによるユニット。縄文語コーラスを取り入れた曲を発表された)を連想させるものがある。

 曲調やアレンジの雰囲気は1曲目と同じなのだが、人声が入った分、この10曲目の方が、より土俗的で縄文チックな感覚を味わえる。

 1曲目と10曲目を比べながら聴くのも楽しい。

 

Thanks to The Earth

 ゆったりとした3拍子系で、美しいメロディーのバラード。ただ美しいだけではなく、地球や、そこに生きる人々への慈しみの想いが込められたような、力強さや祈りを感じられる旋律が魅力的。

 20153月の大阪・貝塚公演で、アンコール最後の締めの曲として取り上げられ、その演奏を聴いて以来、大のお気に入りの曲になった。

 このコンサートでは、ピアノとギターによるアレンジだったが、アルバム版では、ハモンドオルガンの音を使っているのが印象的。

 

 

<総評>

 前作『静かな地球の上で』で、北半球・北米の自然をテーマに、地球への愛を描いた宗次郎さんは、今作『イアイライケレ』では、その地球の自然と共生してきた、先住民族の人々へのリスペクトをテーマにしている。

 2000年以降、テーマ的には欧米シフトしていた宗次郎さんのアルバムだったが、本作では久々に、日本をテーマにした作品が登場している。元来、日本的なテーマの曲が多かった宗次郎さんの音楽だが、西洋・地球とテーマ性を広げ、より表現性を高めて回帰してきたという感じがする。

 アイヌやケルトの民族楽器や、奄美民謡を取り入れたサウンドは、とてもユニークで興味深い音世界を生み出しており、この作品以前の数作で洗練されたサウンドを展開してきた宗次郎さんのアルバムが、民族音楽的な土俗性を感じさせるサウンドへと、原点回帰していると言える。

 そういう意味では、本作は、縄文をテーマにしたアルバム『まほろば』の続編的な位置付で聴くこともできる。

 また、本作のアレンジに関しては、前作『静かな地球の上で』で参加された井上鑑さんが、単独でサウンド・プロデュースを担当しておられるのが大きな特徴である。

 1枚のアルバムを一人のアレンジャーが全担当するスタイルは、『愛しの森a-moll』以来となる。

 『まほろば』『あゆみ』『天空のオリオン』『静かな地球の上で』と、複数名の編曲家がアレンジするスタイルだったが、アレンジャーの面でも原点回帰して、1名単独担当となったことで、全曲を通しての曲調・作風の統一がなされている。(ちなみに、本作以降では、『Ocarina Wind Family』『土の笛のアヴェ・マリア』が複数名編曲担当、その後の『オカリーナの森から』『古-いにしえみち-道』『オカリーナの森から』が単独編曲者がアレンジ担当の作品となっている)

 ニューエイジ、ヒーリングといったジャンルに入れられることが多い宗次郎さんの音楽だが、『イアイライケレ』は、ワールド・ミュージックの要素も大きく感じさせる、非常に個性的な味わいのアルバムとなっている。

 ワールド・ミュージックや民族音楽が好きな方にも、おススメしたい宗次郎作品である。

 

 

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