◎宗次郎さんのアルバム・レビュー 第27作『オカリーナの森・心象スケッチ』

 

宗次郎オリジナルアルバム第27

『オカリーナの森・心象スケッチ』

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 3年ぶりにリリースされた新作アルバム。

オカリーナの森で暮らす宗次郎さんが、心に抱いた想いを綴った随想録“心象スケッチ”アルバム。

 

発売日:2022101日(制作・発売・販売:風音工房)

 

プロデュース:宗次郎

作曲:宗次郎

編曲:蓮沼健介(②~⑧)、宗次郎(①、⑨)

 

<レビュー>

①アイヌの古老の歌に寄せて

 宗次郎さんのオカリナのみによる曲。

 アルトC管(後半はソプラノG管)とバスC管のオカリナの二重奏となっている。宗次郎さんのアルバムで、バスC管のオカリナが使われるのは比較的珍しい。(どちらかというと高い音のオカリナがよく使われる)

 宗次郎さんが演奏する低音オカリナの音色を聞けるという意味では、大変レアな曲である。

 アイヌの伝承歌を思わせるような、哀しげなメロディーが印象的な曲。

 

②歩き出して吹き飛ばして

 1曲目の寂しげな雰囲気から一転して、明るくて心から楽しくなれるような、シャッフルのリズム(タッタタッタ…という風に、スキップするような感じの弾んだリズム)による曲が展開される。

 宗次郎さんのシャッフル・リズム系の名曲と言えば、アルバム『風人』の「風に揺れる木々たちと」が真っ先に思い浮かぶが、それに勝るとも劣らない、新たな名曲の誕生と言える素晴らしい良曲。

 コロナ禍で沈んだ気分を、吹き飛ばして、前を向いて歩きだして行こう!という、宗次郎さんの思いが込められた曲。

 

③りんどうの花開いて

 フルートの音色が印象的なイントロが美しい。

 コンサートでのMCによると、オカリーナの森では春になると美しいりんどうの花が咲くのだそうで、アルバムCDのケース内のディスクを取り外すと、そのりんどうの花の写真が見られる仕様となっている。(つまりCDを買わないと、そのりんどうの写真を見ることはできない…ということになる)

 シャッフルのリズムに乗せて奏でられる、哀愁を帯びた美しいメロディーラインが印象的な良曲。(このアルバム内で、シャッフル・リズムによる2曲目の作品)

 個人的に、このアルバムの中で気に入った曲の一つ。 

 

④月夜のダンス

 宗次郎さんは過去のカバーアルバム(「オカリナ・エチュード」シリーズなど)で、よくロシア民謡も演奏されておられて、相当ロシア・北欧系の民謡がお好きなのだと思う。

 この曲も、メロディーラインや曲調において、ロシア民謡の影響が感じられ、宗次郎流民族音楽系ダンス曲となっている。

 深夜のオカリーナの森の中で繰り広げられる、森の妖精や小動物たちによるダンスのお祭りを表現しているかのよう。

 

⑤今から明日へ

 このアルバムは、14曲は、1曲ずつがそれぞれ個性的で良曲揃いなのだが、アルバム中盤の5~7曲が、わりと似たようなリズム・曲調が続き、やや個性や特徴が弱い感じの曲が続くため、第1印象は“割と普通…”な印象だった。(もっとも、聴いている内に、味わい深さを感じられるようになったが…)

 5~7曲は、すべて短調のシャッフル系リズムの曲と言う共通点があり、メロディーも、かつてのアルバムのどこかで聴いたことがありそうな、ある意味“よくある感じの宗次郎さんの曲”という印象。

 決して悪い意味ではなく、標準的な宗次郎さんのクオリティ・レベルの曲としてはちゃんと楽しめるのだが、目新しさは特になく、普通な感じの作品という感想を抱いた。これといった強い個性や特徴がない分、聴きやすい曲ではあると言えるかもしれない。(あとは、個人の好みの問題かと思う)

 この曲は、3拍子系のシャッフル・リズムの曲で(アルバム内では3曲目のシャッフル・リズムの曲)、明日へ向かって少しずつ進んで行こう…という気持ちになれる優しい雰囲気の曲。宗次郎さんらしい、温かい音楽を味わえる。

 アルバム中盤(5~7曲目)の中では、この曲がもっとも良いと思う。

 

⑥人生は悲しいものだけれど

 アルバム内でシャッフル・リズムによる4曲目の曲。

 「今から明日へ」と同じく短調のシャッフル系リズムの曲。

 イントロや間奏でのフルートの音色が印象的。このアルバムの大きな特徴の一つが、これまでのアルバムではなかったほどフルートを多用している点なのだが、この曲もオカリナとフルートの絡みに注目して聴くのもおすすめ。

 曲名の“人生は悲しいもの”という考え方は、どこか仏教的だなと思う。(仏教の思想“一切皆苦”が、この曲を聴きながら脳裏に浮かんだ)

 4拍子のシャッフル・リズムが、終盤に3拍子系に変わる所も聴きどころ。

 

⑦山路来て…すみれ草

 「山路来て何やらゆかしすみれ草」といえば、俳聖・松尾芭蕉が詠んだ名句だが、この曲も宗次郎さん流の“音による心象詩”と言えるのではないだろうか。

 小品といった趣きの曲だが、5曲目・6曲目と同じく短調のシャッフル系リズムの曲で(アルバム内では5曲目のシャッフル・リズムによる曲…)、メロディーもそれほど強い特徴はなく、アルバム全体を通して聴いた際、もっとも印象が薄い曲という感想を抱かざるを得ない。

 俳句を連想させるようなタイトルからすると、もっと和風でゆったりとした感じの曲かと思ったのだが…。

 

⑧美っ空の下で手を繋いで

 アルバム5~7曲と、それほど個性が強くない印象の曲が続いた後で始まる、8曲目「美っ空の下で手を繋いで」。

 アルバム中盤のそんな印象を吹き飛ばすかのような、強烈な個性あふれる、スタイリッシュな傑作である。(この曲は本当にスゴイ!めちゃくちゃカッコいい曲!!)

 “目が覚めるような”宗次郎さんの新名曲の誕生である。個人的に、このアルバムで最も気に入った曲。

 躍動的なリズムとシンコペーションを多用した巧みなメロディー、効果的に取り入れられた変拍子、フィドルを思わせる野性的なヴァイオリン・サウンド…。

 宗次郎流民族音楽風(フォルクローレ的な感じもする)エスノポップと言えそうな、躍動的な曲。ケルト曲やフォルクローレなどの民族音楽系ダンス曲が好きな人に、特におすすめの曲。

 この曲を聴くために、このアルバムを買うというのも、十分“アリ”だと思う。

 このアルバムを発表した2022年で、御年68歳となる宗次郎さんではあるが、そんな年齢を微塵も感じさせない、大変“若々しさ”がみなぎった瑞々しい曲である。

 やっぱ宗次郎さん、すごいわ…。

(追記)後になって気付いたのだが、タイトルが“美空”ではなく、“美っ空”と小さい「っ」が入っているのは、もしかしたら一種のシャレなのかもと思った。というのも、この曲の主旋律の出だし(メインモチーフ)が「ミッソラー、ミッソッラー」という旋律で、曲中で何度も繰り返し登場するので、宗次郎さん流のシャレで、主旋律と曲名を掛けているのかも。宗次郎さんのコンサートでMCを聴いたことがある方はご存知だと思うが、宗次郎さん、結構ダジャレもよく言われるし大変ユーモアのある方なので、何気なくこの曲名もシャレなのかも…と思った。

 

⑨アイヌの古老の歌に寄せてin the deep forest

 1曲目と全く同じ曲。バスC管を用いたオカリナ二重奏であるところも、メロディーラインも、アレンジも全く同じ。曲の長さ(時間)も全く同じ。

 1曲目と何度も聴き比べたが、正直あまり違いがよく分からなかった…。

 何となくだが、リバーブ(音にかかったエコーの効果。いわゆるお風呂屋さん効果)が、9曲目の方が深い気がする。そんな気がする。

 それが違いだと思うことにしておこう…。そうしよう…。

 ちなみに、アルバムジャケットは、宗次郎さんが撮影した「アイヌ古老」の木彫りの像の写真が使われている。

 

<総評>

 前作『昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ』が発売された2019年から、3年ぶりのリリースとなった新作『オカリーナの森・心象スケッチ』。

 発表体制は前作からと同じく、“制作・発売・販売:風音工房”のスタイルとなっている。

 さて、2019年から2022年の間と言えば、歴史に残るであろう“コロナ禍”が起こったわけだが、音楽界も大きな被害を被った。宗次郎さんも、コンサート活動を中断せざるを得ない時期もあったかと思う。

 そんな中で、前向きな気持ちになれるアルバムを、歩き出して吹き飛ばして、前へ進んで行けるようなアルバムを、という思いが込められて作られたアルバムが、この作品なのだと思う。

 その思いが、聴いていて伝わってくるような、元気をくれるアルバムとなっている。

 今までのアルバムで言うと、『Ocarina Wind Family』の作風・曲の雰囲気に近いと思う。(『Ocarina Wind Family』が好きな方には、『オカリーナの森・心象スケッチ』はおすすめの作品)

 ただ、気になった点を挙げれば、シャッフル系リズムをあまりにも多用しすぎている点(全9曲の内半数以上の5曲もシャッフル・リズム)や、アルバム中盤の5~7曲目あたりが、やや似通った曲調が続きパンチが弱いきらいがある。

 しかしながら、2曲目・3曲目は名曲と言え、そして8曲目は素晴らしい傑作となっており、聴き応えのあるアルバムと言える。

 個人的には、「りんどうの花開いて」と「美っ空の下で手を繋いで」の2曲が、特にお気に入り。

 

 前作『昔むかしの物語を聴かせてよ』が、大作で大傑作アルバムだっただけに、それとの比較で、本作はスケール感では小ぶりで(アルバムの収録時間も、全9曲でわずか30分ほどとなっている)、小気味よい小品という印象を受ける。

(『昔むかしの物語を聴かせてよ』が“長編小説”だとしたら、『オカリーナの森・心象スケッチ』は“ささやかな詩集”といった趣き)

 

 だが、宗次郎ファンなら、きっと楽しめる作品だと思うしオススメもする。

 

 ただ、宗次郎作品初心者で、初めて宗次郎さんのアルバムを聴く・最初の1枚として買う…というのならば、このアルバムよりも、『オカリーナの森から』Ⅰ&Ⅱや前作『昔むかしの物語を聴かせてよ』の方をオススメする。その上で、2枚目以降としてチョイスするのならば、このアルバムを聴くのも良い選択かと思う。

 全曲通しても30分ほどと短いので、サクッと楽しめるアルバムでもある。

 また、今までのアルバムでは無かったほど、フルートを多用しているのも大きな特徴なので、フルートの音色が好きな方にも、オススメのアルバムと言える。

 

◎以下のサイトで購入できます。

風音工房

『オカリーナの森・心象スケッチ』より「歩き出して吹き飛ばして」

※宗次郎さんのYouTube公式チャンネルの動画より。

(この動画での演奏は、ライブ用のアレンジとなっており、CDアルバム版のアレンジとは異なります)

 

『オカリーナの森・心象スケッチ』より「りんどうの花開いて」

※宗次郎さんのYouTube公式チャンネルの動画より。

 

『オカリーナの森・心象スケッチ』より「月夜のダンス」

※宗次郎さんのYouTube公式チャンネルの動画より。

 

『オカリーナの森・心象スケッチ』より「アイヌの古老の歌に寄せて」

※宗次郎さんのYouTube公式チャンネルの動画より。

(この動画での演奏は、ライブ用のアレンジとなっており、CDアルバム版のアレンジとは異なります)