1998年、サントラなどを除く、オリジナル・アルバムとしては94年『マンダラ』以来、4年ぶりとなる喜多郎さんの新作『GAIA-ONBASHIRA-』が発売。
発売後すぐに購入して、早速聴いてみました。
(ちなみに、94~98年の間には、クリスマス曲カバーアルバム『Peace on Earth』、映画『宋家の三姉妹サントラ』、サーカス・ショーのサントラ『サーキュ・インジュヌー』がありました)
『GAIA-ONBASHIRA-』は、曲数は全6曲でしたが、1曲目「Yamadashi」は3曲構成で、10分以上もある組曲形式になっていました。
アルバム全体を通して聴いて、喜多郎さんの作風が、『マンダラ』以前と比べて、変化したことを感じました。
シンセサイザーを中心に据えつつも、アコースティックな民族楽器サウンドの比率が高くなっていました。また、楽曲構成も、以前の『古事記』の頃のような、明瞭なメロディーラインでがっちりと構成された感じではなく、全体的なサウンドの雰囲気で、聴き手のイマジネーションを広げるような曲調が多い印象でした。
『マンダラ』のような、ヘビーなロック・テイストではなく、むしろ、“静寂”や“間(ま)”を大切にした、日本的な精神性を感じさせる、幽玄な趣のある作風となっていました。
(↓特に、4曲目「Wood Fairy」と5曲目「Satobiki」は、民族楽器の笛・インディアンフルートの音などを取り入れた曲で、“静けさ”を味わえる曲調です。※喜多郎さんのYouTube公式チャンネルより)
それらの曲を聴くと、とても深い表現性を持つ音楽へと、喜多郎さんがさらに進化されたのを感じました。
(↓ただ、6曲目「Kiotoshi」は、中々ダイナミックでメロディアスで、アツい曲調となっています)
アルバム『GAIA-ONBASHIRA-』のような曲調・作風は、『古事記』や『ザ・ライト・オブ・ザ・スピリット』等と比べると、一見(一聴?)とっつきにくい印象かもしれません。
ですが、聴けば聴くほどに味が出てくる、いわゆる“スルメ・タイプ”な作品と言えそうです。
より“和”の精神性が高められた『GAIA-ONBASHIRA-』の作風は、のちの『空海の旅 シリーズ』の作風へと、つながるものがあるように感じます。
実は、この『GAIA-ONBASHIRA-』というアルバムは、長野の御柱祭をテーマとしており、そのためか、日本の精神文化を感じさせる曲調のアルバムとなったと思われます。
アメリカへ移住する前は、長野県八坂村(現大町市)で暮らしておられた喜多郎さん。
その喜多郎さんが、“長野・信州”の文化をテーマとして、真正面から取り組んだ作品が、『GAIA-ONBASHIRA-』と言えます。
このアルバムのブックレットに、喜多郎さんが、長野オリンピックの閉会式で太鼓を叩いていたことが書いてあり、それを読んでハッとしました。
実は、たまたま、長野オリンピックの閉会式をテレビで見ていて、長髪で和太鼓を叩いている人物が一瞬映り、「ん?喜多郎さん?」と思いましたが、トレードマークの、逆三角形のあごひげがなかったので、「喜多郎さんと雰囲気がよく似た和太鼓奏者の人がいるんだなあ…」と思いました。
でも、『GAIA-ONBASHIRA-』の写真では、あごひげを剃った喜多郎さんが載っており、ブックレットの一文を読んで、「ああ、あれはやっぱり喜多郎さんだったのか!」と、納得したのを覚えています。
とはいえ、この『GAIA-ONBASHIRA-』。
大学時代に購入して、当時、何度もよく聴いたアルバムです。
個人的には、学生時代の思い出補正もあり、今でも時折、愛聴している作品なのですが、曲調がやや取っつきにくい傾向の作品なせいか、人気や知名度が、必ずしも高い作品というわけではありません。また、喜多郎さんの代表作のアルバムというわけでもでもありません。
むしろ、翌年1999年に発表され、後に第43回グラミー賞で見事、最優秀ニューエイジ・アルバム賞を受賞することになる、『Thinking of you』の方は名実ともに大傑作で、「シルクロード」『古事記』と並ぶ、喜多郎さんの代表作となります。
『Thinking of you』を聴いたのは、グラミー受賞前のことでした。
1999年に発売後、しばらく経ってから聴きました。
全10曲のアルバムでしたが、クオリティーが非常に高く、「これはすごい!」と思いました。
(グラミー受賞作『Thinking of you』は、喜多郎さんのYouTube公式チャンネルにて、全曲公開されています。以下の動画リンクで、ぜひ試聴してください!)
第43回グラミー賞最優秀ニューエイジ・アルバム賞受賞作品
『Thinking of you』※喜多郎さんYouTube公式チャンネルより
①透明感のある抒情的なメロディーが美しい1曲目「Estrella(エストレイア)」
②インディアン・フルートの音色が印象的な2曲目「Mercury(マーキュリー)」
③ダイナミックなサウンドの3曲目「Cosmic Wave(コズミック・ウェイブ)」
④サンポーニャ(アンデスの笛)を取り入れた、幻想的な4曲目「Harmony of the Forest(ハーモニー・オブ・ザ・フォレスト)」
⑤アンデスの笛ケーナと太鼓の音が印象的で、民族舞曲を思わせる5曲目「Fiesta(フィエスタ)」
⑥アルバム・タイトルにもなっており、喜多郎さんならではの優美なメロディーが味わえる6曲目「Thinking of you(シンキング・オブ・ユー)」
⑦アート性が高く、大自然への畏怖の念を感じさせる7曲目「Spirit of Water(スピリット・オブ・ウォーター)」
⑧流れる清水や、せせらぎの光景が目に浮かんでくる8曲目「Stream(ストリーム)」
⑨壮大な大宇宙を翔けぬけていくような躍動感を味わえる9曲目「Space Ⅱ(スペースⅡ)」
⑩そして、短い曲ながら、雄大な大海原の情景を感じさせる10曲目「Del Mar(デル・マール)」
どの曲もイマジネーション豊かな傑作で、聴き終わる頃には、このアルバムが大好きになりました。
「喜多郎さんのこういうアルバムを待っていた!」
心からそう思いました。
アルバム『Thinking of you』は、まさに、僕の好み・嗜好に、完璧にはまった作品でした。
それまでの作品のような、東洋的・日本的な旋律やサウンドを保ちつつ、さらに、よりスケールを感じさせるような曲調でした。中でも「Stream」や「Space Ⅱ」では、洗練度が増したアレンジとなっているように感じられました。
喜多郎さんが、それまで以上の、さらなる高みへと昇華したのを、アルバム『Thinking of you』から感じました。
『Thinking of you』は、喜多郎さんの全ての作品の中でも、一番好きなアルバムです。
「喜多郎さんの最高傑作は?」と問われたら、僕は迷わず『Thinking of you』と答えます。
喜多郎さんのファンの間では、喜多郎さんの最高傑作は『古事記』であるという認識が多数かと思われます。
僕もそれに異論はなく、『古事記』は最高傑作だと思います。
しかしながら、僕自身の好みや個人的な認識・感想では、やはり『Thinking of you』の方が上を行くので、自分自身のランキングの中では、『Thinking of you』が1位となります。
やはり、民族楽器系の笛の生音・生楽器のインディアン・フルートやケーナ、サンポーニャのサウンドが入っているのが、僕のハートをとらえて離さないのかもしれません。
ともあれ、傑作アルバム『Thinking of you』を初めて聴いた時の感動をよく覚えています。こんなに素晴らしい作品に出会えて、とても幸せだと思いました。
さらに嬉しいことに、後の2001年2月。
『Thinking of you』は、グラミー賞ベスト・ニューエイジ・アルバム賞を受賞。
喜多郎さん、7回目のノミネートで、ついに念願のグラミー受賞となりました。
受賞式翌日の新聞1面に大きく載った、グラミー・トロフィーを抱える喜多郎さんの写真と記事を見て、喜びと感動に心が打ち震えました。
「喜多郎さん、本当に本当におめでとうございます!!」
心の中で、思いっきり祝福し、その新聞記事を大事に切り抜きました。(現在、我が家で永久保存しています)
さて、ちょうどその頃、僕は大学を卒業し、社会人となり、働きながら生計を立てつつ、音楽活動を頑張って行っていた頃ですが、グラミー受賞の前年・2000年には、喜多郎さんは大きなプロジェクトに、携わられました。
それが、NHKスペシャル『四大文明』でした。
※今回紹介した、喜多郎さんのアルバム
アルバム『GAIA-ONBASHIRA-』https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_nrebb4xa9nVnBqkfGQGIzgOnOHSYLaPHk
アルバム『Thinking of you』https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_kAQl9ASgRmRjP3m6VBYQDQ73Vh4C56s7c
<おまけ>
2001年のグラミー受賞式典の際の、喜多郎さんへのトロフィー贈呈と、受賞スピーチの動画です。