◎久石譲ジブリ音楽レビュー(2)『風の谷のナウシカ サウンドトラック~はるかな地へ…~』

 久石譲×宮崎駿監督作品・第1作『風の谷のナウシカ』

『風の谷のナウシカサウンドトラック~はるかな地へ…~』

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久石譲×宮崎駿監督、第1作目『風の谷のナウシカ』のサウンドトラック。

 

発売日:1984.3.25(発売元:徳間ジャパンコミュニケーションズ)

 

Produced by Joe Hisaishi

作曲・編曲:久石譲

 

<レビュー>

①風の谷のナウシカ~オープニング~

 オルガン系サウンドによるミニマル・ミュージックのイントロとコーダが印象的。このミニマル・ミュージックほど、ナウシカの世界観・腐海のイメージにぴったりな音楽は他にないのではと感じられる見事なサウンド。

 ミニマル音楽出身の久石さんならではの曲と言える。

 そんな、ミニマルのイントロを打ち破るかのような、オーケストラのトゥッティが“ジャン!”と鳴り響き、イメージアルバムの「風の伝説」のメロディー・メインテーマが、ピアノとオーケストラで奏でられていく。

 イメージアルバム版との最大の違いが、オーケストラ・サウンドで壮大に盛り上がって行くところである。

 ちなみに、映画本編でのオープニングは、サントラに先駆けて制作されたシンフォニー・アルバムの「風の伝説」のイントロ部の抜粋と、本サントラのピアノの主旋律以降の部分とを、編集して合わせる形で使用されていた。

 なので、先述のオルガンによるミニマル部分は、本編では未使用である。ただ、そのモチーフは、アレンジやサウンドの趣きを少々変えて、映画中盤の腐海不時着シーンなどで使用されていた。

 

②王蟲の暴走

 この曲は3つの部分から成る。

 まず、第1のパートは、ベル系のシンセ音をメインに使ったファンタジックな雰囲気の曲。“ミ→レ→#ド→シ→#ド→レ”と、4つの音を循環するメロディーが美しく印象的。個人的に好みの曲調。映画本編では、冒頭の、ナウシカが腐海を探索するシーンの“ムシゴヤシの午後の胞子”シーンで使用された。

 第2のパートは、怒りの王蟲がユパを追って暴走するシーンのBGM。イメージアルバムの「戦闘」を元にした、ディストーション・ギターを多用した激しい曲調。(ディストーション・ギター=怒りの王蟲、に関してはイメージアルバムの「王蟲」の記事を参照)

 第3のパートは、イメージアルバム「王蟲」を元にした、シタールの音を取り入れた曲。

 第1、第2のパートは本編で使用されたが、第3のパートは使用されなかった。

 第1パートの“静”のサウンドと、第2パートの“動”のサウンドの対比が面白い。

 

③風の谷

 この曲は2つの部分から成る。

 1つ目のパートは、ダルシマー系の撥弦楽器の音色と、インドの打楽器タブラを組み合わせたエスニックな雰囲気の曲。

 映画序盤で、風の谷に到着したユパが、村人たちに囲まれて談笑するシーンで使われた。

 どこか懐かしさを感じさせる、緑豊かな風の谷の風景と見事にマッチした、民族音楽風の曲となっている。

 後半2つ目のパートは、メインテーマ(風の伝説)のメロディーのアダージョ・アレンジ。

 先述のダルシマー系の音色を使いつつも、シンセサイザー中心のアレンジ。特に、ダルシマーとシンセリード音をユニゾンで鳴らすアレンジがユニークで印象的。ゆったりとしたテンポで、ほの暗い印象を受ける。

 映画本編では、大ババ様がナウシカに、“青き衣をまといて…”の伝説について語るシーンで使われた。

 

④虫愛ずる姫

 この曲も2つの部分から成る。

 まず、“鳥の人”のテーマで始まる、スケール感のあるオーケストラ・アレンジが魅力的な前半部。

 傷ついたウシアブを、腐海に帰すシーンで使われた曲だが、大空へ飛翔するナウシカの動きに合わせた、音楽的演出となっていた。(同様の演出は、映画冒頭の、砂漠から風の谷へ帰る際の、ナウシカが飛び立つシーンでも見受けられる)

 ただ、“鳥の人”のメロディーに続くモチーフは、イメージアルバムには無い旋律で、サントラ用に新たに作られたメロディーと思われる。ストリングス・サウンドが美しい曲となっている。

 後半部は、イメージアルバムの「王蟲」を元にした曲。

 これは、サントラ2曲目「王蟲の暴走」第3の部分と同じく、映画本編では使われなかった。おそらく、青い目バージョンの王蟲が登場するカットで使われることを想定して、用意された曲だと思われるが、未使用となった。

 代わりに、ウシアブ帰還シーンでの王蟲のカットでは、サントラ8曲目「腐海にて」のお冒頭部(アンビエント系シンセコーラス音)が使われている。

 

⑤クシャナの侵略

 イメージアルバムの4曲目「巨神兵~トルメキア軍~クシャナ殿下」より、クシャナのテーマとトルメキア軍のテーマを元にした楽曲。

 まず、前半はクシャナのテーマ。イメージアルバムのアレンジに近く、特徴的なアルペジオに、どこか悲壮感のあるメロディーが印象に残る。

 このモチーフは汎用性が高いと判断されたのか、映画本編では度々流れている。(父ジルを殺された怒りのナウシカ直後、クシャナ初登場シーンや、ペジテに捕まるナウシカ、風の谷の人々が避難するシーンに使われている)

 後半は、トルメキア軍のテーマのオーケストラバージョン。

 イメージアルバムでは、ドラム音を使ったシンセサイザー・アレンジだったが、映画本編に使用されるにあたって、オーケストラで演奏されている。ティンパニの音が際立つサウンドが、軍隊の行進を思わせる。

 映画では、風の谷侵攻後の巨神兵を運ばせるシーンや、酸の海でのトルメキア軍行軍のシーンで使われた。

 現在の久石さんのオーケストレーションと比較して、オーソドックスで割とシンプルな感じのオーケストレーションとなっている。

 

⑥戦闘

 まるで、ブラームスなどの後期ロマン派のシンフォニーを思わせるようなイントロが圧巻。このCDで、最もシンフォニックな味わいのある作品。

 歯切れのよいオーケストラ・サウンドと、グルーブ感のあるシンセドラム音の組み合わせが秀逸。久石さんの素晴らしいオーケストレーションが味わえる。

 木管とシロフォンの組み合わせや、トゥッティとストリングスを巧みに構成した、メリハリのあるオーケストレーションなどが聴きどころ。

 コーダ部のオーボエによるメロディーは哀愁があり美しい。

 様々な交響楽的要素が凝縮されている傑作。…しかし、映画本編では未使用となった。

 元は、イメージアルバムの「戦闘」を、シンフォニーアルバムで大幅にメロディーを追加し、オーケストラ・アレンジが施された曲だが、そのシンフォニー版がほぼそのままの形で再演奏されている。(リフレインが無い分、サントラ版の方がスマートな印象)

 サントラの曲順から推測するに、アスベルが乗るガンシップと、トルメキア軍の飛行部隊との戦闘シーンで使われることを想定して、用意されたものと思われる。

 結果的に、このシーンは音楽無しとなっていたが、もし、この曲がバックで流れていたら、また違った印象になっていたかもしれない。

 

⑦王蟲との交流

 腐海の王蟲の巣に不時着したナウシカが、王蟲と交流するシーンで流れる曲。

 “ラン・ランララ・ランランラン…”のメロディーと歌声が非常にインパクトが強く、ナウシカ関連の曲の中で、最もよく知られている作品。

 この歌声は、久石さんのお嬢さんで、現在歌手として活躍中の、麻衣さんが歌ったもの。収録時は、わずか4歳だったとのことで、その安定した音程には驚かされる。

 当初、久石さんは、ボーイ・ソプラノを使うことを考えていたそうだが、宮崎駿監督に曲のイメージを伝えようと、ひとまずデモ・テープを録ることにされた。そこで、音感の良かった娘に歌わせて仮録音し、聴いてもらったところ、宮崎さんが大変気に入り、本番も麻衣さんの歌声で、ということになったそうだ。

 もっとも、当時4歳だった麻衣さんは、知らない大人ばかりの、暗い録音スタジオに連れて来られ、歌わされて、とても怖い思いをしたそうである…。

 また、CDの解説書で紹介されているが、伴奏には、当時最先端のシンセサイザー、フェアライトCMI(価格1200万円!)が使用されているとのこと。麻衣さんの歌に注目が集まりがちだが、シンセサイザー音楽としても傑出した名曲であると言える。

 

⑧腐海にて

 7曲目と同じく、シンセサイザー・アーティストとしての、久石さんのハイ・クオリティー・サウンドを堪能できる作品。

 ゆったりとしたコーラス系のシンセ・サウンドと、オルガン系ミニマル・フレーズの融合が素晴らしい傑作。

 特に、包み込むようなアンビエント風味のコーラス音は、神秘性を感じさせる。

 映画本編では、青い目の王蟲が映し出されるところなどで使われている。(ウシアブを腐海に帰した所と、クライマックスの静まりかえった王蟲の群れのシーン)

 アレンジはシンプルながら無駄がなく、オルガン・サウンドのフレーズも非常に印象的。ヒーリング・ニューエイジ系の曲としても第一級の作品と言える。

 この曲は、上述の王蟲登場シーンの他、映画中盤の、ナウシカの秘密の部屋(腐海の植物の部屋)のシーンのBGMとしても使われた。

 イメージアルバムでの「腐海」のテーマは、おどろおどろしい雰囲気の曲だったが、サントラでの「腐海にて」は、幻想性・神秘性が強調された曲調と言える。

 

⑨ペジテの全滅

 ナウシカとアスベルが、壊滅状態のペジテを訪れるシーンで使われた曲。

 シンセサイザーのアルペジオや、バスドラムを使った前半部と、クシャナのテーマの変奏による後半部とで構成されている。

 まず前半部。“タタタタタタ”という速いパッセージのアルペジオが印象的だが、それに続く、バスドラムの音で構成された中間部が圧巻。

 心臓の鼓動を思わせるような描写だが、壊滅したペジテの街の映像と合わさった際、底知れぬ緊迫感が醸し出されていた。

 映画本編では、王蟲の巨大な亡骸が映し出されたタイミングで、シタールの音が印象的な、イメージアルバム「王蟲」の変奏がかかっていたが、サントラには未収録。おそらく、本編用に編集された箇所であると思われる。サントラでは、再び先述のアルペジオを使ったパートへと続くが、こちらはディストーション・ギターを活用したアレンジとなる。

 後半部は、クシャナのテーマの分散和音を用いた変奏で、ナウシカがペジテに囚われるシーンで使用された。

 

⑩メーヴェとコルベットの戦い

 オーケストラ・サウンドによる、サスペンス・タッチの緊迫感あふれる曲。

 タイトル通り、ペジテの飛行機からメーヴェで飛び立ったナウシカと、そのナウシカを追うトルメキアのコルベットの追撃戦のシーンで使われた。

 オーケストラによる映画音楽の王道的な表現だが、同じ音型を繰り返す、ミニマル風に味付けされたストリングスや、「鳥の人」などに登場する“ラシドー・シ・ソ・ラー”の音型を変奏させた木管楽器を配したりと、久石さんならではのオーケストレーションの上手さも感じられる。

 2008年の“久石譲in武道館”コンサートでは、オーケストレーションをさらに豪華にした、この曲の改訂版が披露されている。

 

⑪蘇る巨神兵

 この曲は2つの部分から成る。

 まず、木管楽器の哀愁漂う音色が美しい、メイン・テーマのアダージョ変奏。映画本編では、酸の海に入ろうとした傷ついた王蟲の子を、ナウシカが身を挺してかばい、いたわりあうシーンのBGMとして使用された。

 この感動的なシーンで流れる、優しい木管の音色とメロディーが、涙を誘う。

 続いて、ポルタメントを多用したストリングスが、不気味な不協和音を奏でる、現代音楽的なアプローチの“巨神兵”の音楽。

 楽曲構成から察するに、映画クライマックスの巨神兵登場シーンの映像にピッタリ合わせて作られた曲と思われる。特に、巨神兵がドロドロに溶けて崩れていく場面と、シンクロさせて作られたと感じられる音楽的描写となっている。しかし、最終的に本編では未使用となり、実際の映画のこの場面は音楽無しとなっている。

 ただ、“タララーラ、タ・ラーラ”という、印象的な巨神兵のライトモティーフは、風の谷に不時着した巨神兵の卵が初登場するシーン、ユパが巨神兵について言及するところで使用されている。

 

⑫ナウシカ・レクイエム

 この曲も、2つの部分から構成。

 前半は、葬送曲を思わせるような、厳かなストリングス・サウンドが印象的。その、ストリングスの伴奏にのって、木管がメインテーマの変奏を演奏するオーケストレーションになっている。映画本編では、ナウシカの死を悼み、王蟲たちによってナウシカの体が高く高く掲げられていくシーンで使用されている。そこから、そのままの流れでこの曲の後半部が使われている。

 後半部は、7曲目「王蟲との交流」と同じく、麻衣さんの歌声で“ラン・ランララ・ランランラン”のメロディーが奏でられる。

 曲調やアレンジは7曲目とほぼ同じものとなっている。

 映画では、最大のクライマックス“その者、青き衣をまといて…”の伝説が繰り広げられる名シーンとなっている。

 そのシーンと相まって、この曲も非常に大きなインパクトを持って、多くの人に深く記憶されたことと思われる。

 後に、この“ラン・ランララ・ランランラン”のメロディーの曲名として「ナウシカ・レクイエム」と紹介されることがあるが、正確には「ナウシカ・レクイエム」という曲の後半部分である。

 初出という意味ではイメージ・アルバムということになるので、「遠い日々」のメロディーと呼ぶ方が、より正確なのかもしれない。

 

⑬鳥の人~エンディング~

 フル・オーケストラの楽曲。シンセサイザーの音やミニマル色な描写はなく、完全なオーケストラ作品となっている。

 イメージアルバムの「鳥の人」(および「はるかな地へ…」)のメロディーをもとにしたオーケストラ・アレンジで、壮麗で広がりのあるメロディーとサウンドは、まさに久石譲さんの真骨頂。

 映画本編では、復活したナウシカが、群衆に囲まれる歓喜のシーンのBGMとして始まり、そのままエンドロールへと繋がっていく。

 映画では、「鳥の人」のメロディーの部分で一旦フェード・アウトした上で、メインテーマ(「風の伝説」)のピアノが流れ、エンドロールにつながる形に、カット&編集がされていた。

 このサウンドトラックでは、楽曲の全ての部分を完全収録している。サントラ版を聴くと、「鳥の人」の部分から「風の伝説」の部分へと、盛り上がりつつ、自然な形で繋がっていくような編曲が施されていることが、よくわかる。

 後半の「風の伝説」のメロディーの部分のオーケストレーションは、1曲目とほぼ同じだが、圧巻は楽曲コーダ部のオーケストレーション。

 金管のファンファーレ風フレーズに続いて、トレモロ・ストリングスを前面に出したトゥッティが、クレッシェンドしていき、最後に、まるで上澄みを残すかのように、高音の透明感のあるストリングス音が“フワン…”と鳴って消えるオーケストレーション。

 まるで、鳥が天高く飛び去って行った…というような感覚を思わせる、見事な音楽的演出である。

 映画では、ラストの、腐海の底に残されたナウシカの頭巾のそばで、芽生えた小さな植物が映し出される所にあたり、まさに、一抹の未来への希望を感じさせるようなサウンドとなっている。

 

 

<総評>

 「風の谷のナウシカ サウントトラック~はるかな地へ…~」は、実際に映画本編で使用された音楽を中心に収録されたCDである。

 “を中心に”と表現したのは、本編では未使用となってしまった楽曲も収録されているからである。

 久石さんは、映画公開の前年、198311月に、まずイメージアルバムを発表されている。

 これは、宮崎駿監督にお会いして、作品の説明を受け原作を読んだ上で、イメージを膨らませて作られたイメージ音楽集のCDである。このイメージアルバムでは、シンセサイザーをメインに使った音楽となっていた。

 対して、このサウンドトラックでは、シンセだけでなくオーケストラも使用されている。(比率は、どちらかというとシンセの方が多い)

 イメージアルバムを聴いた宮崎駿監督とプロデューサーの高畑勲さんが、久石さんの音楽を大変気に入り、当初は別の音楽家が映画本編を担当することに決まっていたのを、久石さんの起用に変更させたというエピソードは有名である。そのイメージアルバムと、このサウンドトラックの間には、シンフォニー「風の伝説」というオーケストラ・アレンジのアルバムも制作されている。

 久石さんは、シンセサイザー音楽のイメージアルバムと、オーケストラ音楽のシンフォニーアルバムの双方を手がけた上で、それぞれの良さを最大限に伸ばし、融合する形で、このサウンドトラックに昇華させている。そういう意味では、このサウンドトラックの音楽は『風の谷のナウシカ』関連の音楽として、最高峰であると言える。

 ミニマルミュージック、民族音楽、オーケストラ音楽と、とてもバラエティーに富んだ音楽を楽しめるのも、このサウンドトラックの特色である。

 まぎれもなく、久石譲さんが手がけたジブリ音楽の原点であり、時代を越え、後世にも残るであろう名曲・傑作である。

 久石さんご自身にとっても、初のメジャーな大作長編映画の音楽担当であり、このナウシカの音楽がきっかけとなり、広く世に知られるようになった。

 

 楽曲の構成に関して、先述のように、「ナウシカ」はシンセサイザーとオーケストラの双方を使ったアレンジだが、このようなスタイルは、その後の「ラピュタ」「トトロ」へと受け継がれていく。

 だが、その後「魔女の宅急便」「紅の豚」では、シンセサイザーの比率は下がり、アコースティック楽器の比率の方が高まる。

 さらに「もののけ姫」以降は、オーケストラがメインの音楽・アレンジとなって行く。

 その「もののけ姫」以降「千と千尋の神隠し」や「ハウルの動く城」などのオーケストレーションと、この「風の谷のナウシカ」のオーケストラ曲でのオーケストレーションを比較すると、大分、趣きが異なることが分かる。

 「もののけ姫」以降は、細部まで計算されたかのような、緻密で多種多様なオーケストレーションで、ある種、きめ細かくがっしりとした構成のオーケストレーションが中心となっている。

 対し「風の谷のナウシカ」のオーケストレーションは、緻密さという意味では共通するものの、割とあっさり目でオーソドックスな感じのオーケストレーションとなっている。(主旋律・ハーモニー・対旋律…といった風にすっきりと分類することができる)

 絵画で例えるならば、「もののけ姫」以降、近年のオーケストレーションが、どっしりとした油絵だとすると、「ナウシカ」は水彩画のような、あっさりした雰囲気を感じる。

 2000年代以降、久石さんはオーケストラの指揮活動にも取り組まれ、クラシックの交響曲・管弦楽曲を深く研究されておられるそうだが、その結果がオーケストレーションにも現れているのかもしれない。

 そういう意味でも、円熟度を増してきている近年の久石さんの作品と比べて、「風の谷のナウシカ」の音楽は、“若い久石譲さん”を味わうことができる作品でもある。

 

 

久石譲ジブリ音楽・目録