久石譲×宮崎駿監督作品・第2作『天空の城ラピュタ』
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久石譲×宮崎駿監督、第2作目『天空の城ラピュタ』のサウンドトラック。
主題歌「君をのせて」収録。
発売日:1986.8.15(発売元:徳間ジャパンコミュニケーションズ)
Produced by Joe Hisaishi
作曲・編曲:久石譲
<レビュー>
①空から降ってきた少女
「君をのせて」のオーケストラ・アレンジ版といった趣のドラマチックなサウンド。
映画冒頭のタイトル~OPクレジットのBGMとして使用されている。ラピュタの世界へ、一気に引き込んでくれる、まさに名曲!
イントロのピアノの音型は、イメージアルバム1曲目「天空の城ラピュタ」のイントロの一部を取り入れている。主旋律に入る直前の、木管楽器のサウンド・メロディーも印象的。
主旋律は、イメージアルバム「シータとパズー」のストリングス・アレンジを元にしつつ、さらにスケール感のある、美しいオーケストレーションにと昇華されている。
遥かな天空で繰り広げられる冒険物語にふさわしい、雄大さ・壮大さを感じさせる見事なオーケストレーションが聴きどころ。
「ナウシカ」から、さらに磨きのかかった久石さんのサウンドが展開されており、久石さんの代表作にして、後世に残る名曲である。
②スラッグ渓谷の朝
この曲は3つの部分から構成。
まず1つ目の部分は、シンセサイザー音による細かいミニマル音型に、ハープのグリッサンド、シンセ・パッド音を加味した、ファンタジックなサウンド。
シータの飛行石が光を放ち、空をゆっくりと降りてくるシーンで使われた。
「ナウシカ」から連なる、魅力的なミニマル・サウンドは、久石さんならではの響き。
2つ目は、朝霧に煙る渓谷の夜明けのシーンで使われた、ゆったりとしたオーケストラ曲。ピッコロなどの木管楽器が、小鳥のさえずりを思わせ、音楽で情景を描く“音画”的な曲と言える。クラシックのオーケストラ曲を思わせる、味わい深いオーケストレーション。
そして3つ目の部分は、トランペットの独奏による、イメージアルバムの「ハトと少年」の主要メロディー。
映画では、小屋の屋根の上で朝日を受けて、トランペットを吹くパズーのシーンで使われている。(劇中では、パズーが演奏している設定)
その爽やかなメロディーは、まさに名曲。
朝日の中で、この曲を空に向けて吹けたら、最高の気分だろうなと思う。
③愉快なケンカ(~追跡)
親方VSシャルル(ドーラの息子)の力比べのシーンでかかる曲が、この曲の前半部分「愉快なケンカ」。
互いに、筋肉でシャツを破り飛ばしながら、壮絶(?)な肉弾戦となるが、このコミカルなシーンを音楽で盛り上げていたのが、この曲。
パンチが当たる瞬間と、ffのトゥッティが、見事にシンクロしたアレンジが面白い。
3曲目後半の「追跡」は、パズーとシータが逃げ込んだ機関車と、ドーラが運転する暴走オートモービルの、カーチェイス・シーンで流れる曲。
緊迫感がありながらも、久石さんらしい、耳に残るメロディーラインが印象的な曲となっている。このシーンで、ドーラが車の上で仁王立ちするカットと、曲中の“ドーラのテーマ”が流れる所が、完全にシンクロしているのも、効果的な音楽的演出となっている。
「愉快なケンカ(~追跡)」は、表現豊かに、フル・オーケストラでダイナミックに描かれているのが聴きどころ。
④ゴンドアの想い出
この曲は3つの部分から成る。
まず、シンセ・ストリングスが奏でる流麗なメロディーが印象的な1つ目の部分。これはイメージアルバムには無かった旋律で、サントラ用に新たに書かれたメロディーと思われる。
パズーとシータが飛行石の力で、鉱山の地下へと降りていくシーンで使用された。
2つ目の部分は、フルートとハープによる優しいメロディーが印象的。
大変美しい曲で、素朴なアレンジながらも名曲と言える。「ゴンドアの想い出」という曲名は、この曲のことを表していると言える。
シータが故郷のことをパズーに語るシーンで使用された。
3つ目の部分は、強めのアタック感のあるシンセ・ストリングスのミニマル・フレーズに、ティンパニの音を組み合わせた緊迫感のあるサウンド。
映画後半のラピュタ到着後、シータがムスカに捕らわれてしまうシーンで使用されている。
⑤失意のパズー
シータから、ラピュタのことは忘れてと言われ、ムスカから金貨を渡されて城を出されたパズーが、失意の中、トボトボと鉱山の村へ歩いて帰るシーンのBGM。
オーボエの主旋律が、とても切ない。哀しみにあふれた曲調。
パズーの心境を、美しい旋律で表現したオーケストラ曲。
雰囲気的に、ナウシカ・サントラの、「蘇る巨神兵」の前半部分と似ているような気がする。80年代中期、久石さんの初期の頃の作風の一つと言える。
⑥ロボット兵(復活~救出)
シンセサイザーの音による疑似オーケストラ・サウンドの大傑作。
イメージアルバムの「ティディスの要塞」のメロディーを元にした曲だが、そちらがハードロック仕立ての作品だったのに対し、サントラ版の「ロボット兵」は、ストリングスやティンパニ、オーケストラ・ヒットのシンセ音をメインにした、シンフォニック仕立てとなっている。
生オーケストラではなく、全てがシンセの音で演奏されているが、圧倒的な迫力とダイナミックさを堪能できる。シンセサイザーでオーケストラを再現する際の、まさに“お手本”と言える高いクオリティの作品。
昨今は、DTMでオーケストラを再現する人も多いが、そういった機材が無い時代に、フェアライトと呼ばれるシンセサイザーでこれほどのスケール感を表現してしまうとは…。もはや神業と思えるような、久石さんの力量を味わえる。
ロボット兵の重厚なテーマと、フラップターでシータ救出に向かうパズーのテーマ(細かい音型で緊迫感のあるサウンド)の対比が素晴らしい。このフラップターに乗っているところのテーマは、このシーンの他、映画冒頭のドーラたちによる飛行船急襲シーンでも使用されている。
このトラックの後半、曲調が変わる所からの疾走感と緊迫感は、映画本編のシータ救出シーンの映像と完全にシンクロした音楽的演出となっており、圧巻である。
⑦合唱 君をのせて
・作詞:宮崎駿
・合唱:杉並児童合唱団
主題歌「君をのせて」の児童合唱アレンジ曲。
このサントラには、2種類の合唱版による「君をのせて」のアレンジが収録されており(7曲目と13曲目)、こちらは歌詞で歌っているバージョン。
バックに、パッド系のシンセ音で軽く伴奏が入っているが、それほど目立つものではなく、コーラスの歌声の響きを、よく味わえる編曲となっている。
シンプルで素朴なアレンジによって、メロディーの美しさがより際立っており、珠玉の旋律美を堪能することができる。
ちなみに、この7曲目の合唱版「君をのせて」は、映画本編では未使用であり、ボーナストラック的な趣もある。
⑧シータの決意
イメージアルバム1曲目「天空の城ラピュタ」のメロディーの、ピアノ・ソロ・アレンジ曲。久石さんのピアノ曲らしい、抒情性と旋律美をたたえた名曲。
映画本編では、ラピュタに到着したパズーとシータが、現れたロボットの後について、誰もいないラピュタの都市の廃墟の中を歩いて行くシーンなどで使われた。
滅亡してしまったラピュタ文明への哀歌を思わせる曲である。
後年、久石さんが音楽を担当された映画『HANA-BI』のサントラを聴いた際、その中の曲の一つが、このラピュタの曲のメロディーと、出だしがよく似ているなと思った。(あくまで出だしの所だけだが…)
⑨タイガーモス号にて
パズーとシータの二人をドーラが連れて行くことを知った、ドーラの息子たちが、フラップターで空中乱舞して歓喜するシーンのBGM。(イメージアルバム「フラップター」が原曲)
小屋の周りを飛ぶ鳩たちを、空から見下ろすパズーとシータのシーンのBGM。(「君をのせて」のメロディー抜粋)
ラピュタへ向けて出発していくタイガーモス号のシーンのBGM。(イメージアルバム「鉱夫」が原曲)
ドーラから「これを着な!」と服を渡されて、着替えたシータが、キッチンへ向かうシーンのBGM。(イメージアルバム「ドーラ」が原曲)
以上の4つのBGMが、この1トラックに収録されている。
いずれも、映画のシーンやカットに合わせて、イメージアルバムの原曲をアレンジされているので、1つ1つの曲はごく短い。
だが、久石さんの多様なメロディーが凝縮されていると言える。
それぞれのモチーフのフル・バージョンを聴きたい場合は、イメージアルバムを聴くことをおすすめする。
⑩破滅への予兆
この曲は2つの部分から成る。
まず前半は、“ロボット兵”のテーマ曲のシンセ・ストリングス・バージョン。アタック感の強いシンセ・ストリングスが、ロボット兵のメロディーを、力強く不気味に奏でている。
映画本編では、ラピュタ到着後、ムスカが飛行石の力で将軍たち兵隊を地上に落下させて殺害した後、無数のロボット兵が登場し、兵やゴリアテに襲いかかって行くシーンで使われている。
10曲目後半は、シンセ・ストリングス系の音をベースにした、速いパッセージの、スピード感と緊迫感あふれるミニマル・サウンド。
ジェット機のようなサウンド・エフェクトが印象的。(ただ、この効果音は映画本編ではカットされていた)
映画の、“竜の巣”登場カットから、ゴリアテがタイガーモス号を砲撃するシーンのBGMで使用されている。
⑪月光の雲海
パズーとシータが、タイガーモス号の見張り台で話し合うシーンのBGM。
シータが子供の頃に教わった、おまじないの言葉のことをパズーに話すシーン(その内の、滅びの言葉が“バルス”)の音楽。
主題歌「君をのせて」のメロディーを、シンセサイザーとピアノの音で、静かに優しく演奏するアレンジ。
曲名通り、月光に照らされた雲の景色と、飛行船の頂のところで話す、パズーとシータの姿を、より印象深いものにしている曲である。
メロディーはAメロとBメロのみで、サビの部分がない構成になっているので、イメージアルバムの「シータとパズー」の雰囲気に近い印象がある。
また、ピアノによるメロディーの演奏は、5連符など装飾音を効果的に使った、素晴らしい演奏。
⑫天空の城ラピュタ
ラピュタのサントラの中で、最も壮大で雄大な曲。
イメージアルバムの「大樹」をもとにした前半部と、同1曲目「天空の城ラピュタ」をもとにした後半部から成る。
竜の巣をくぐりぬけて、パズーとシータがラピュタにたどり着き、雲が晴れてラピュタの威容が広がるシーンや、ラストの、飛行石とともに天高く昇って行く大樹のシーンで流れる壮大なスケールの音楽がこの曲。
シンセによるミニマル・フレーズとフル・オーケストラのサウンドが、見事にミックスされたアレンジとなっている。
ミニマル・フレーズの音は、イメージアルバム版「大樹」と比較して、より輪郭がはっきりとした印象になっている。
ラピュタ関連のCDの最新作(2018年現在)の『交響組曲 天空の城ラピュタ』でも、ワールド・ドリーム・オーケストラによる壮大な演奏で、この曲を聴くことができる。こちらのミニマル・フレーズは、シンセではなく、グロッケンなどアコースティックな楽器が使用されている。
⑬ラピュタの崩壊
・合唱:杉並児童合唱団
主題歌「君をのせて」のメロディーの児童合唱バージョン。
歌詞で歌われていた7曲目とは異なり、こちらは「ルルルールルールールー…」とスキャットにより、無伴奏で歌われている。
映画本編では、クライマックスの、シータがパズーに“滅びの言葉”を伝え、ムスカに向けて「バルス!」と叫ぶシーンで使用されている。
映画では、メロディーがサビに入ったところの2拍目までで、カット・アウトする演出がとられていた。崩壊するラピュタの映像を、緊張感を高め、より印象深くする音楽的演出となっていた。
一方、このサントラでは、サビからAメロのリフレインまで、曲の全てを完全収録している。
コラールを思わせる、透明感のある合唱アレンジが美しい。
⑭君をのせて
・作詞:宮崎駿
・歌:井上あずみ
ジブリ作品の主題歌屈指の名曲にして人気曲。
今や世界中のジブリファンによって愛唱され、後世に残る、久石さんの音楽の代表作の一つと言える。
この曲の原曲となったのは、イメージアルバムの「シータとパズー」のメロディー。
そのメロディーをもとに、Bメロの後半を変更し、最も曲が盛り上がる所のメロディー=サビの部分が追加された。
このサントラに収録の「君をのせて」は、笛系の音色が、ケルト・アイリッシュ風の印象的なメロディーを奏でる、イントロ部分から完全収録されている。
そのイントロは、イメージアルバムの「鉱夫」がもととなったもので、映画ではラストシーン、ラピュタをグライダーで脱出したパズーとシータが、空中でドーラたちと再会する歓喜のシーンから流れ出す。
そして、手を振りながら別れた後、ひるがえったグライダーが遠方へ飛空していくカットの辺りで、マリンバによるリズムの刻みがあり、井上あずみさん(当時は“杏美”表記)の澄んだ歌声が流れていく。
その映像を思い浮かべながらCDを聴くと、イントロ~歌の入りの所が、映画のキャラクターの感情や映像の動きと、マッチして作られていることが分かる。
映画はその後、宇宙空間から、大樹が地球を見下ろしているカットのエンドロールとなるが、歌詞の内容ととても合った“絵”が印象的なエンドロールである。
曲のアレンジについては、久石さんお得意の、マリンバによるミニマル風フレーズを多用した伴奏となっている。また、細かいリズムを刻むパーカッションのアレンジも含めて、80年代後半の久石さんの、典型的な作風を顕著に表している。
すでに30年以上も前の曲にも関わらず、全く古さを感じさせないアレンジはさすが!
久石さんの音楽が持つ、普遍性をも感じることができる作品である。
<総評>
「天空の城ラピュタ」のサウンドトラックは、まさに久石さんの音楽の代表作の一つと言える名盤である。
先に作られたイメージアルバムをもとに、実際の映画の中で流れる音楽として作られたのが、このサウンドトラックの音楽である。
なので、もし、映画のバックで流れていた音楽を聴きたい、あるいは主題歌の「君をのせて」を収録したCDが欲しい、という場合は、このサウンドトラックCDを選ぶ必要がある。(イメージアルバムやシンフォニー編と間違えないよう注意が必要)
ただし、このサウンドトラックCDは、映画本編で使用された曲を完全収録しているわけではない。サントラ未収録の曲もいくつかある。
例えば、ポム爺さんが飛行石について語るシーンの曲や、燃え盛る塔の上でシータがロボット兵を見つめるカットの曲、パズーの勇敢さを表した“ハトと少年”のメロディーの短いアレンジなどが未収録。
とは言え、ラピュタ本編の映画音楽を完全収録したサントラCDは発表されてはいないので、ラピュタ劇中音楽を収録した、唯一のサウンドトラックであることに変わりはない。
「風の谷のナウシカ」に続き、久石さんが手がけた「ラピュタ」の音楽は、前作以上に“映画音楽”として完成度が高い作品となっている。
一つ一つのライト・モティーフ(テーマ曲)を、場面ごとに見事に配した構成とアレンジ。シンセサイザーとフル・オーケストラの演奏によるスケール感のある雄大なサウンド。そして、久石さんならではの旋律美が堪能できる名作となっている。
また、「ナウシカ」以上に、映像の動きに合わせた楽曲構成や、キャラクターの心情をより深く表現する音楽が、印象深いものとなっている。
「ナウシカ」の後、作曲依頼が殺到し、数々の映画音楽を手がけた久石さんは、その“匠の技”をさらに高めたことが、このラピュタの音楽に表れている。
(※もう一つの「ラピュタ」サウンドトラック)
ラピュタ劇中音楽を収録したサウンドトラックは一つだけと書いたが、それはあくまで“日本語版”での話。
実は、おなじみの日本のラピュタとは別の演奏で録音された、もう一つのラピュタのサントラが存在する。
それが、「天空の城ラピュタ USAヴァージョン・サントラ」である。
アメリカでラピュタをリリースする際に、劇中の音楽が少なすぎるという(アメリカ人感覚の)理由から、作り直す必要にかられ、久石さんが全編を、オーケストラ・メインのハリウッド・スタイルの映画音楽に再構築された。
語学学習も兼ねて、その北米版の「ラピュタ」のブルーレイを購入して鑑賞してみたのだが、日本版と比べると、驚くほどにほとんどのシーンにBGMが入っている。とは言え、聴き馴染んだラピュタの音楽・メロディーラインはちゃんと残っているので安心したのを覚えている。
アレンジはオーケストラ・サウンドで、よりダイナミックでスケール感のあるものになっていた。ある意味、“ジョン・ウィリアムズ”風味な久石さんになっていたと言える。
ホイッスルの音色を使った曲など、アメリカ版用に新たに書き下ろされた曲もあり、日本版と聴き比べてみるのも楽しいかもしれない。
あと、序盤の、小屋の上でパズーがトランペットを吹くシーンで、なぜかリュートの伴奏が入っていて、「一体、誰がパズーの伴奏してんねん!?」と思わず画面にツッコミを入れてしまった(笑)。
やはり、日本版に馴染んでいるので、USA版は最初は違和感があるかもしれない。