久石譲×宮崎駿監督作品・第2作『天空の城ラピュタ』
『天空の城ラピュタ イメージアルバム~空から降ってきた少女~』
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高い人気を誇る“ラピュタ”の音楽の原点。
発売日:1986.5.25(発売元:徳間ジャパン)
プロデュース:久石譲
作編曲・演奏:久石譲
<レビュー>
①天空の城ラピュタ
哀愁漂うピアノの美しい旋律が印象的な作品。
隆盛を誇り、その後滅亡したラピュタの文明への哀歌を感じさせる。そういうテーマ性の意味でも、「ナウシカ」のメインテーマとも通じるものがある。曲調的にも「ナウシカ」メインテーマと共通性が高い。ピアノ・ソロのメロディーから始まり、ストリングスが加わって盛り上がって行く構成は近いと言える。
曲が盛り上がって行くところで加わる、パーカッションのアレンジ(細かいリズムを刻む感じのアレンジ)は、80年代後半の久石さんの作品によくみられる、特徴的なリズムアレンジ。
曲名に、映画タイトルが付けられていることから察するに、もしかすると当初は、この曲がメインテーマ的な位置付けだったのかもしれない。
この曲のメロディーは、映画本編では、ラピュタに降り立ったパズーとシータが、出迎えのロボットの後をついてラピュタの廃墟を歩いて行くシーンや、大樹の前で、ロボットが摘んできてくれた花をシータが受け取るシーンで使われている。
②ハトと少年
鉱山の渓谷の朝、パズーが小屋の上で、谷に向けてトランペットで吹くメロディーの原曲。
8分の6拍子の軽快なメロディーが心地良い。
このイメージアルバム版「ハトと少年」は、トランペットのメロディーの後、「君をのせて」の原曲である「シータとパズー」のテーマが奏され、そして再びトランペットのメロディーに戻ってくるという楽曲構成になっている。(「シータとパズー」は4分の4拍子だが、この曲での「シータとパズー」のメロディーは8分の6拍子になっている。)
メロディーラインは、トランペットやホイッスル系のシンセ音が受け持っているが、伴奏にリュートの音を使っている。それによって、ヨーロッパの古楽や民俗曲のような雰囲気が醸し出されている。ヨーロッパの(特にケルト・アイリッシュっぽい感じの)伝統曲や民族音楽的な雰囲気を、味わうことができる名曲である。
③鉱夫
サントラを先に聴いてから、このイメージアルバムを聴いた方は、この曲を聴いて「君をのせて」のイントロの部分だ!と思われるかもしれない。
この曲「鉱夫」が、ほぼそのままの形で、サントラに収録の主題歌「君をのせて」のイントロに使われている。
映画だとラストシーン、パズーとシータの二人が、空中でドーラたちと再会するシーンで流れている。
まるで、アイリッシュなどケルト音楽のダンス曲を思わせるような、笛系の音色のメロディーが印象的な作品。ストリングスのメロディーラインも秀逸。
サントラ「君をのせて」のイントロ部と、このイメージアルバム「鉱夫」の一番の違いは、金属系のパーカッション音を使っているところ。
曲名から推測して、鉱山の男たちのテーマとして作られた曲だったのかもしれない。その鉱夫たちが、ツルハシで鉱石を叩いているかのような、金属的で工業的な打音が特徴的な編曲となっている。
また、映画の中盤、ラピュタへ向けてタイガーモス号が出発するシーンでも、この曲が使われている。
④飛行石
ベル系のキラキラしたシンセ音をメインにした曲。アルペジエーターを使用したかのような、流れのある音型が印象的。
最初はベル系の音のみだったのが、途中でシンセ・ストリングスの音が足されて、音に厚みが増す構成が素晴らしい。
シンセサイザー奏者としても第一級の、久石さんのサウンド・センスが光っている。
この曲は映画本編では、地下坑道でポム爺さん飛行石について語るシーンにおいて、メロディーやリズムアレンジが追加された形で使用されている。
ただ、そのバージョンはサウンドトラックには未収録なので、CDで聴こうとするならば、それに近い曲調で原曲である、イメージアルバム版の「飛行石」を聴くしかない。(裏ワザとして、USAバージョンのサントラを聴く手もあるが、楽器編成やアレンジが異なるので要注意)
映画本編バージョンの「飛行石」は、すごくいいアレンジとメロディーだったので、CDにぜひ収録して欲しかったと思う。
⑤ドーラ
タイトル通り、女海賊ドーラのテーマ曲。映画本編でのドーラ登場シーンやカットで流れる、力強いメロディーの曲。
このイメージアルバム5曲目「ドーラ」が、その原曲であり、フル・バージョンと言える。
しっかりと刻み付けるような力強いストリングス・サウンドのメロディーが、豪快なドーラのイメージにぴったり。このメロディーが鳴った瞬間、あの顔が思い浮かぶくらい、強烈な印象を持った曲である。
また、このイメージアルバム版「ドーラ」では、シンセサイザーによるユニークなサウンド・エフェクトが散りばめられており、とても面白く楽しいアレンジである。
⑥シータとパズー
主題歌「君をのせて」の元となったメロディー。
だが、聴き慣れた「君をのせて」のメロディーと、途中から大きく異なる展開となる。ちょうど歌で言うと、「父さんが残した…」のところのメロディー(つまりサビの部分)が無く、またBメロも少し異なるところがある。
これは、この曲のメロディーを主題歌として“歌”にする際に、先述のサビのメロディーが追加されたためである。そのため、主題歌のバージョンしか知らずに、初めてイメージアルバムの「シータとパズー」を聴くと、すこし物足りなく感じてしまうかもしれない。
このアルバムでは、6曲目と11曲目が、同じ「シータとパズー」となっているが、演奏楽器が異なる。
6曲目の方は、室内楽的な(少人数の)弦楽アンサンブルからピアノ・ソロになるアレンジ。一方、11曲目の方は、ストリングス・アンサンブルからシンセ・ホイッスルが主旋律を奏するパートになり、そして再び、ストリングスに戻るアレンジとなっている。
⑦大樹
映画本編で、パズーとシータがラピュタに到着し、雲が晴れてラピュタ全景の威容が広がるシーンや、大樹が飛行石の結晶とともに天高く昇って行くシーンなどでかかる、壮大な曲の原曲。スケール感のある作品で、大変聴き応えがある。
ミニマル・フレーズをバックに配しつつ、広がりを感じさせる雄大なメロディーが展開される構成は圧巻。シンセとストリングスを見事に融合させたアレンジで、傑作!
このイメージアルバム版「大樹」では、後半、ソロ・ヴァイオリンが大活躍するアレンジとなっているのが特徴的。即興的なフレーズを弾いているが、伴奏と相まって、大樹の神秘性を感じさせる、力強い演奏が展開されている。
ラピュタのイメージアルバムの中では、一番のお気に入りの曲。
この曲に関しては、サントラ版よりも、こちらのバージョンの方が個人的には好きだ。
⑧フラップター
海賊ドーラ一味が乗っている、小型の飛行マシーンが“フラップター”である。トンボを思わせる、虫の羽のようなプロペラで飛行する。この曲は、その“フラップター”をイメージした曲。
シンセサイザーによる軽快な電子音のアルペジオや、虫の羽音のような効果音を取り入れたアレンジが面白い。
ストリングスのピチカートによる効果音が愛らしくて印象的。
4つ打ちのベース・ドラムのリズムにのって、楽しく軽妙に曲が展開されていく。
中間部のストリングスのメロディーが大層美しい。
映画本編では、城からのシータ救出劇の後、パズーがドーラに「船に乗せてほしい」と懇願し、連れていくことを知ったドーラの息子たちが歓喜して、フラップターで空中乱舞するシーンのBGMで使われている。
⑨竜の穴
メロディーやミニマル・フレーズなどは無く、回転するかのような効果音と、琴のような音を使った不気味なアルペジオを組み合わせたサウンド。
“音響的”な構成のこの作品は、なかなか前衛的な味わいが漂う。
『ナウシカ』以降、メロディーメーカーとして評価されて来た久石さんだが、この曲では、“現代音楽出身”の久石さんの作風を思わせる。
「竜の穴」というタイトルからは、おそらく“竜の巣”の内部の、荒れ狂った気象・光景をイメージしたものかと思われる。だが、このイメージアルバムに収録の作品の内、唯一この曲に関しては、その音楽的なモチーフが、本編で使用されることはなかった。
⑩ティディスの要塞
映画本編の、暴れ狂うロボット兵のシーンの音楽の原曲。
サントラ版では、シンセサイザー音楽ながら、ストリングス系の音をベースとしたシンフォニックな路線になっていたが、原曲のイメージアルバム版はハードロック仕立て。
ディストーション・ギターやオーケストラ・ヒット、激しいドラムビートをふんだんに使ったド派手な曲。この曲では“Rockな久石さん”を堪能できる。
近年の久石さんには、あまりこういう曲調の作品は無いが、当時は40代の若さ。エネルギッシュさもあり、「こんな曲も作れまっせ!」的な、久石さんの音楽性の幅広さを感じることができる。そういう意味では、この曲は、後のオリジナル・アルバム『地上の楽園』時代の“ロック・ミュージシャンJoe Hisaishi”の前兆ととらえることもできるかもしれない。
ジブリ作品以外では、ポップやロックな曲調の作品も、時折手がけたこともある久石さんだが、ジブリ関連のアルバムの中では、この曲は異色の作風となっている。それゆえ、このアルバムの中でも、強い存在感を発揮している曲となっている。
⑪シータとパズー
「シータとパズー」の第2バージョン。
メロディー自体は6曲目と全く同じだが、楽器編成・アレンジが異なる。
先述のように、ストリングス・アンサンブル→シンセ・ホイッスル&ハープ→再びストリングスに戻る構成となっている。リフレインがあることによって、曲の長さは6曲目よりも、この11曲目の方が時間が長くなっている。
6曲目の所で書いた通り、「君をのせて」のサビの部分がないメロディーだが、このストリングス・アレンジを聴いていると、よりクラシック曲のような、バロック曲のような…そんな趣きも感じることができる。
後に作られたサントラの、「空から降ってきた少女」や「君をのせて」と比較して、“サビ”という盛り上がる場所が無い代わりに、全体的に落ち着いた印象になっている。
⑫失われた楽園
1曲目のアダージョ・バージョン。
1曲目「天空の城ラピュタ」のメロディーが、静かなシンセ音をメインにした、質素なアレンジで奏でられている。
ある意味「ティディスの要塞」とは、全く正反対な曲調となっており、ヒーリング音楽路線の、沈思するかのような曲調となっている。
シンセサイザーは、当時久石さんが愛用しておられた“フェアライト”の音源と思われるが、透明感のあるサウンドが美しい。
シンプルなアレンジゆえ、久石さんのシンセサウンドの美しさを、じっくりと堪能することができる曲である。
<総評>
宮崎駿監督と久石譲さんのコンビ2作目である『天空の城ラピュタ』。
高い人気を誇る傑作で、その関連CDも多数、発売されている。
主なものとしては、このイメージアルバムをはじめとして、サウンドトラック、シンフォニー編、USA版サントラ、そして最新のもの(2018年現在)としては、2018年発売の「交響組曲・天空の城ラピュタ」がある。
それらの全てのCD・音楽集の原点と言えるのが、このイメージアルバム「空から降ってきた少女」である。まさに、ラピュタの音楽は、このアルバムから始まったと言える。
ナウシカに続き、宮崎監督のラピュタの音楽を担当することになった久石さんは、監督からもらったストーリーのキーワードをもとに作曲をされた。
前作のナウシカを越える作品を生み出そうという、久石さんの強い意気込みが、一曲一曲から感じられる。
このイメージアルバムの曲の、ほぼ全てのモチーフが、後のサウンドトラック・映画本編で使用されており、宮崎駿監督や高畑勲さんから、大きな信頼と評価を得たことが推測できる。
「ナウシカ」のイメージアルバムと、「ラピュタ」のイメージアルバムを比較すると、基本的にシンセサイザーがベースの音楽であるところは共通している。だが、「ラピュタ」ではストリングスを、シンセではなく生楽器のストリングス・アンサンブルを起用していることが、大きな違いとして挙げられる。
このことによって、ラピュタのイメージアルバムは広がりのある、ふくよかな味わいが感じられ、より温かみを増したサウンドが生み出されている。
映画未完成の段階で、最初に作られた「ラピュタ」関連のアルバムにも関わらず、久石さんは、ラピュタの世界観を余すところなく音楽で表現することに、見事に成功しておられる。
あらためて、久石さんの力量のすごさを感じられる名作アルバムである。ラピュタ・ファン必聴の、傑作アルバムと言える。
※「君をのせて」収録CDをお探しの方へ
天空の城ラピュタの音楽で、最も有名で人気なのが、主題歌「君をのせて」である。
その「君をのせて」を収録しているCDを探していて、ラピュタのイメージアルバムを見付けられた方もおられるかもしれない。
注意していただきたいのが、主題歌「君をのせて」が収録されているCDは、イメージアルバムではなく、サウンドトラックの方である。
イメージアルバムでは、レビュー本文中で書いたように、主題歌のメロディーの元となった原曲「シータとパズー」が収録されている。だが、「君をのせて」そのものは収録されてはいない。また、「シータとパズー」と「君をのせて」は、メロディーの一部が大きく異なるので、注意が必要である。
主題歌「君をのせて」収録CDを希望される場合は、サウンドトラックの方を購入する必要がある。