久石譲×宮崎駿監督作品・第7作『千と千尋の神隠し』
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歌入りの曲が5曲収録。 ジブリ音楽において、久石さんのシンセをメインとした音楽を聴ける最後の作品
発売日:2001.4.4(発売元:徳間ジャパンコミュニケーションズ)
Produced by Joe Hisaishi
作編曲:久石譲
<レビュー>
①あの日の川へ
・歌:う~み
映画本編冒頭で流れる、サントラ「あの夏へ」の原曲。
本編では、ピアノによる抒情的な演奏が印象的だったが、イメージアルバムの原曲「あの日の川へ」は、女性ヴォーカルを使った曲。
ただ、ヴォーカルといっても歌詞はなく、“ラララ~”という感じのスキャットで歌われている。
また、サントラのバージョンに比べて、テンポは速めとなっており、曲の後半ではリズム楽器も入るなど、インストというよりは、どちらかというと歌もの寄りなアレンジとなっている。
②夜が来る
サントラでは、“湯婆婆”のテーマ的に使われているモチーフ。
サントラ版とオーケストレーション(アレンジ)は似たものとなっているが、イメージアルバム版は、シンセサイザーの音源によるアレンジとなっている。
色彩豊かなオーケストレーションは、シンセ音源であっても見事で、聴き応えのある楽曲となっている。
③神々さま
・歌:おおたか静流
サントラ「神さま達」の原曲。
サントラ版は、フル・オーケストラによるアレンジだったが、イメージアルバムは歌ものの曲となっている。歌っているのは、ヴォーカリストのおおたか静流さん。
沖縄音階だったり、和風だったり、中々にぎやかで、聴いていて楽しい曲。アレンジも見事。
久石さんには、いろんな作風の曲があるが、この曲は、エスニックな音楽性・作風を堪能できる良曲。
④油屋
・歌:上條恒彦
サントラ「仕事はつらいぜ」の原曲。
5音音階でリズミカルな伴奏音型や、和太鼓の音も取り入れたアレンジが、ユニークで素晴らしい。
歌っているのは、『紅の豚』のマンマユート団のボス役や、『もののけ姫』のゴンザ役で知られる上條恒彦さん。
『千と千尋の神隠し』でも、油屋の父役の声で出演しておられた。
この曲においても、低音の豊かな歌声が魅力的。
歌の内容については…。間違っても、サラリーマンの方は、月曜の朝にこの曲を聴いてはいけない内容の歌詞である。
⑤不思議の国の住人
サントラ「ボイラー虫」の原曲。
釜じいのシーンでかかる曲だが、このイメージアルバムのアレンジとサントラのオーケストレーションは、ほぼ同じものとなっている。
すでに、イメージアルバムの段階で、完成形に近いものとなっている。
(ただ、音源はほかの曲と同じく、生オーケストラではなくシンセ音源が使われている)
強烈に印象に残るメロディーラインや、中間部のピアノの聴かせどころなど、久石さんの見事な楽曲構成が味わえる。
⑥さみしいさみしい
カオナシのイメージソング。
サントラでは、メロディーラインのごく一部が、かなり雰囲気を変えて使われていた程度。(サントラ「仕事はつらいぜ」の中間部分や「カオナシ」など)
その原曲であるこの曲は、ギターをメインにした軽快な伴奏が印象的なアレンジとなっている。
全体的にさわやかな印象の曲調・メロディーではあるが、歌詞の内容は、なかなかアブナイ感じのものである…。
⑦ソリチュード
映画本編(サントラ)では使用されなかった曲。
ヴァイオリンの音色が大変美しいバラードだが、全体的に、マイナー系のしっとりとした雰囲気の曲調となっている。
北野武監督作品などでは、よく聴かれるタイプの久石さんの作風(大人な雰囲気の曲調)だが、宮崎アニメの曲としては、珍しい曲調と言える。
映画本編には、あまり合わないと判断されたのか、サントラで使用されることはなかった。
⑧海
サントラ「6番目の駅」の原曲。
静かなピアノのサウンドが幻想的で、透明感あふれる曲調が魅力的。
映画では、海の上を走る電車のシーンで使われた。その原曲であるイメージアルバム「海」は、サントラ版とほぼ同じアレンジ・曲調となっており、すでにイメージアルバムの段階で完成度が高い。
サントラでは生ストリングスだったが、イメージアルバムでは、シンセストリングスが使われている。
⑨白い竜
・歌:RIKKI
本編・サントラでは、ほんのごく一部のモチーフしか使われなかった曲だが、抒情的で幻想性を感じさせる素晴らしい作品。
ハープの音色を効果的に使ったアレンジが印象的。
「白い竜」というタイトルと歌詞の内容から、ハクをイメージした曲であるとわかるが、どこか悲しげなメロディーの中に、力強さも感じさせる。
大変、深みのある聴き応えのある曲で、隠れた名曲であると言えるだろう。
⑩千尋のワルツ
サントラ「ふたたび」の原曲。3拍子・ワルツのメロディーが大変美しい曲。
この曲も他の曲と同じく、サントラはオーケストラによる演奏だが、ここではシンセサイザー音源による演奏となっている。
サントラ版ほどの音の広がりは無いものの、抒情的なメロディーと千尋の世界観は、イメージアルバムですでに完成されている。
優しく美しいメロディーラインは、久石さんならではの魅力にあふれている。名曲!
(総評)
全10曲の内、半数の5曲が歌もの(正確には1曲はスキャット)の楽曲で構成され、愉快で楽しい曲から、幻想的でシリアスな曲調まで、非常にバラエティー豊かな内容のアルバムとなっている。
イメージアルバムにおいて、歌ものが多いという点では、『となりのトトロ・イメージソング集』以来ということになる。
また、前作『もののけ姫』では、イメージアルバムのモチーフが、サントラになる際に使用されなかったケースが多くみられた。それに対し、『千と千尋の神隠し』イメージアルバムでは、7曲目を除き、そのメロディー・モチーフの多くが、本編・サントラにおいてアレンジ・曲調を変えつつも使われている。
一方で、『千と千尋の神隠し』のイメージアルバムとサウンドトラックの一番の違いは、サントラはオーケストラによる演奏だが、イメージアルバムはシンセサイザー音源による演奏となっていることである。
2曲目や5曲目、10曲目のようなオーケストラ風の曲も、シンセ音源が使われている。
イメージアルバム=シンセ、サントラ=オーケストラという形は、前作『もののけ姫』以前からあったスタイルだが、次作『ハウルの動く城』以降は、すべてオーケストラ・サウンドかアコースティック・サウンドがメインとなり、シンセはほとんど使われなくなる。
そういう意味では、ジブリ音楽において、久石さんのシンセをメインとした音楽を聴けるのは、この『千と千尋の神隠し・イメージアルバム』が最後の作品ということになる。
サントラと聴き比べて、同じメロディー・モチーフが、シンセ・アレンジと生オーケストラとで、どのように響きが変わるのかということに着目して聴くのも、このアルバムの楽しみ方の一つと言えよう。