◎久石譲ジブリ音楽レビュー(13)『千と千尋の神隠し イメージアルバム』

 

久石譲×宮崎駿監督作品・第7作『千と千尋の神隠し』

『千と千尋の神隠し イメージアルバム』

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歌入りの曲が5曲収録。 ジブリ音楽において、久石さんのシンセをメインとした音楽を聴ける最後の作品

 

 

発売日:2001.4.4(発売元:徳間ジャパンコミュニケーションズ)

 

Produced by Joe Hisaishi

作編曲:久石譲

 

 

<レビュー>

 

あの日の川へ

・歌:う~み

 映画本編冒頭で流れる、サントラ「あの夏へ」の原曲。

 本編では、ピアノによる抒情的な演奏が印象的だったが、イメージアルバムの原曲「あの日の川へ」は、女性ヴォーカルを使った曲。

 ただ、ヴォーカルといっても歌詞はなく、“ラララ~”という感じのスキャットで歌われている。

 また、サントラのバージョンに比べて、テンポは速めとなっており、曲の後半ではリズム楽器も入るなど、インストというよりは、どちらかというと歌もの寄りなアレンジとなっている。

 

②夜が来る

 サントラでは、“湯婆婆”のテーマ的に使われているモチーフ。

 サントラ版とオーケストレーション(アレンジ)は似たものとなっているが、イメージアルバム版は、シンセサイザーの音源によるアレンジとなっている。

 色彩豊かなオーケストレーションは、シンセ音源であっても見事で、聴き応えのある楽曲となっている。

 

③神々さま

・歌:おおたか静流

 サントラ「神さま達」の原曲。

 サントラ版は、フル・オーケストラによるアレンジだったが、イメージアルバムは歌ものの曲となっている。歌っているのは、ヴォーカリストのおおたか静流さん。

 沖縄音階だったり、和風だったり、中々にぎやかで、聴いていて楽しい曲。アレンジも見事。

 久石さんには、いろんな作風の曲があるが、この曲は、エスニックな音楽性・作風を堪能できる良曲。

 

④油屋

・歌:上條恒彦

 サントラ「仕事はつらいぜ」の原曲。

 5音音階でリズミカルな伴奏音型や、和太鼓の音も取り入れたアレンジが、ユニークで素晴らしい。

 歌っているのは、『紅の豚』のマンマユート団のボス役や、『もののけ姫』のゴンザ役で知られる上條恒彦さん。

 『千と千尋の神隠し』でも、油屋の父役の声で出演しておられた。

 この曲においても、低音の豊かな歌声が魅力的。

 歌の内容については…。間違っても、サラリーマンの方は、月曜の朝にこの曲を聴いてはいけない内容の歌詞である。

 

⑤不思議の国の住人

 サントラ「ボイラー虫」の原曲。

 釜じいのシーンでかかる曲だが、このイメージアルバムのアレンジとサントラのオーケストレーションは、ほぼ同じものとなっている。

 すでに、イメージアルバムの段階で、完成形に近いものとなっている。

(ただ、音源はほかの曲と同じく、生オーケストラではなくシンセ音源が使われている)

 強烈に印象に残るメロディーラインや、中間部のピアノの聴かせどころなど、久石さんの見事な楽曲構成が味わえる。

 

⑥さみしいさみしい

 カオナシのイメージソング。

 サントラでは、メロディーラインのごく一部が、かなり雰囲気を変えて使われていた程度。(サントラ「仕事はつらいぜ」の中間部分や「カオナシ」など)

 その原曲であるこの曲は、ギターをメインにした軽快な伴奏が印象的なアレンジとなっている。

 全体的にさわやかな印象の曲調・メロディーではあるが、歌詞の内容は、なかなかアブナイ感じのものである…。

 

⑦ソリチュード

 映画本編(サントラ)では使用されなかった曲。

 ヴァイオリンの音色が大変美しいバラードだが、全体的に、マイナー系のしっとりとした雰囲気の曲調となっている。

 北野武監督作品などでは、よく聴かれるタイプの久石さんの作風(大人な雰囲気の曲調)だが、宮崎アニメの曲としては、珍しい曲調と言える。

 映画本編には、あまり合わないと判断されたのか、サントラで使用されることはなかった。

 

⑧海

 サントラ「6番目の駅」の原曲。

 静かなピアノのサウンドが幻想的で、透明感あふれる曲調が魅力的。

 映画では、海の上を走る電車のシーンで使われた。その原曲であるイメージアルバム「海」は、サントラ版とほぼ同じアレンジ・曲調となっており、すでにイメージアルバムの段階で完成度が高い。

 サントラでは生ストリングスだったが、イメージアルバムでは、シンセストリングスが使われている。

 

⑨白い竜

・歌:RIKKI

 本編・サントラでは、ほんのごく一部のモチーフしか使われなかった曲だが、抒情的で幻想性を感じさせる素晴らしい作品。

 ハープの音色を効果的に使ったアレンジが印象的。

 「白い竜」というタイトルと歌詞の内容から、ハクをイメージした曲であるとわかるが、どこか悲しげなメロディーの中に、力強さも感じさせる。

 大変、深みのある聴き応えのある曲で、隠れた名曲であると言えるだろう。

 

⑩千尋のワルツ

 サントラ「ふたたび」の原曲。3拍子・ワルツのメロディーが大変美しい曲。

 この曲も他の曲と同じく、サントラはオーケストラによる演奏だが、ここではシンセサイザー音源による演奏となっている。

 サントラ版ほどの音の広がりは無いものの、抒情的なメロディーと千尋の世界観は、イメージアルバムですでに完成されている。

 優しく美しいメロディーラインは、久石さんならではの魅力にあふれている。名曲!

 

 

(総評)

 全10曲の内、半数の5曲が歌もの(正確には1曲はスキャット)の楽曲で構成され、愉快で楽しい曲から、幻想的でシリアスな曲調まで、非常にバラエティー豊かな内容のアルバムとなっている。

 イメージアルバムにおいて、歌ものが多いという点では、『となりのトトロ・イメージソング集』以来ということになる。

 また、前作『もののけ姫』では、イメージアルバムのモチーフが、サントラになる際に使用されなかったケースが多くみられた。それに対し、『千と千尋の神隠し』イメージアルバムでは、7曲目を除き、そのメロディー・モチーフの多くが、本編・サントラにおいてアレンジ・曲調を変えつつも使われている。

 一方で、『千と千尋の神隠し』のイメージアルバムとサウンドトラックの一番の違いは、サントラはオーケストラによる演奏だが、イメージアルバムはシンセサイザー音源による演奏となっていることである。

 2曲目や5曲目、10曲目のようなオーケストラ風の曲も、シンセ音源が使われている。

 イメージアルバム=シンセ、サントラ=オーケストラという形は、前作『もののけ姫』以前からあったスタイルだが、次作『ハウルの動く城』以降は、すべてオーケストラ・サウンドかアコースティック・サウンドがメインとなり、シンセはほとんど使われなくなる。

 そういう意味では、ジブリ音楽において、久石さんのシンセをメインとした音楽を聴けるのは、この『千と千尋の神隠し・イメージアルバム』が最後の作品ということになる。

 サントラと聴き比べて、同じメロディー・モチーフが、シンセ・アレンジと生オーケストラとで、どのように響きが変わるのかということに着目して聴くのも、このアルバムの楽しみ方の一つと言えよう。

 

 

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