久石譲×宮崎駿監督作品・第3作『となりのトトロ』
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イメージアルバムでは初めて、歌で構成された作品。
発売日:1987.11.25(発売元:徳間ジャパンコミュニケーションズ)
Produced by Joe Hisaishi
作曲・編曲:久石譲
<レビュー>
①となりのトトロ
・作詞:宮崎駿
・歌:井上あずみ
『となりのトトロ』のイメージアルバムにあたるこの作品は、当時の宮崎駿監督作品の関連アルバムとしては、初めて“歌もの”アルバムとして制作された。そのトップバッターの曲が、おなじみのトトロ主題歌「となりのトトロ」である。
映画本編ではエンドロールで流れ、エンディング主題歌の役目を担っている。
口ずさみやすく親しみのあるメロディーは、古今東西老若男女を問わず万人に愛される、久石さんの代表作の一つとなっている。
このイメージソング集に収録の「となりのトトロ」を聴くと、すでに完全に完成された楽曲となっており、全く同じ状態でサウンドトラックにも収録されている。
この辺り、イメージアルバムとサウンドトラックとで大きく異なっていた、前作『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」の時とは違うと言える。
ラピュタとは違い、トトロの場合は、イメージソング集でもサウンドトラックでも、どちらを入手しても、主題歌「となりのトトロ」を聴くことができる。
②風のとおり道
・作詞:宮崎駿
・歌:杉並児童合唱団
トトロ関連の音楽の中で、主題歌「となりのトトロ」「さんぽ」とともに、人気が高い曲がこの曲。
「風のとおり道」は、映画本編で、“トトロの住む森の大樹=大きなクスノキ”が画面に登場する際などで流れる、5音音階を基調とした印象的なメロディーの原曲。
このイメージソング集では、歌の入っているバージョン(2曲目)と歌無しのインストゥルメンタル・バージョン(11曲目)が収録されている。
両方ともアレンジは同じもので、この2曲目は“歌”のバージョン。
宮崎駿さん作詞の歌を、杉並児童合唱団が爽やかな歌声で、歌いあげている。
子どもたちのコーラスに耳を傾けていると、新緑の森の、澄んだ風に包まれているような…そんな清涼感に満ちた感覚になれる。
真にすぐれたメロディーは、歌入りでもインストでも素晴らしい名曲であるということを、この曲は証明している。
③さんぽ
・作詞:中川李枝子
・歌:井上あずみ&杉並児童合唱団
映画オープニング主題歌「さんぽ」の原曲。
ほとんどそのままの形で、映画本編やサントラに使われているが、それとは異なっているのが、イントロ部。
映画では、バグパイプ風の音によるメロディーが印象的なイントロとなっているが、このイメージソング版「さんぽ」では、その部分は特にメロディーは無く、大太鼓とシンバルによる、マーチのリズムによるイントロとなっている。
それ以外は、イメージアルバムの段階で既に完成された楽曲となっており、おなじみの明るく元気な曲調を楽しむことができる。
また、映画本編やサントラは、井上あずみさんのソロでの歌唱だが、このイメージソング版は、井上あずみさんと児童合唱団のコーラスで歌われている。
④まいご
・作詞:中川李枝子
・歌:井上あずみ
明るめの曲が多いトトロの音楽の中で、この曲は唯一と言ってもよい切ない曲調の作品。映画終盤の迷子になるメイのシーンで流れるメロディーだが、哀しいムードが漂うメロディーである。
原曲であるイメージソングの「まいご」は、歌詞の内容も哀しげ…。
メイを探すサツキの心情を歌った歌詞だが、かなり悲痛な内容となっている。
メロディーラインの最初の出だしが、ちょっと「君をのせて」と似ているが、コード進行も近いものになっている。アレンジ面でも、「君をのせて」と同じく、マリンバの音を多用した編曲で、80年代後半の久石さんの特徴的なアレンジとなっている。
サウンドトラックの12曲目に、ボーナストラック的にこの曲がそのままの形で収録されている。
⑤すすわたり
・作詞:中川李枝子
・歌:杉並児童合唱団
映画序盤に登場する、“まっくろくろすけ”こと“すすわたり”のイメージ・ソング。
コミカルな曲調で、時折入る“ア゛”という感じの、人の声を加工したサウンドエフェクトが面白い。このようなサウンドエフェクトは映画本編でも使用されていた。
トトロのイメージ・ソングの中では、この曲がもっとも童謡っぽい雰囲気を持っている。
かわいくて、ちょっととぼけた感じもあるメロディーラインを、児童合唱団が楽しげに歌っている。聴いていて、思わず頬がゆるむような、愛らしい曲である。
⑥ねこバス
・作詞:中川李枝子
・歌:北原拓
映画本編の、ねこバスに乗って迷子のメイを探しに行くシーンの音楽(サウンドトラック17曲目「ねこバス」)の原曲が、この曲のメロディー。
サントラでは、オーケストラ・サウンドで演奏されていたが、この原曲版は、ドラムスやベースなどが入ったバンド・サウンドのアレンジとなっている。
陽気でノリのいいメロディーとアレンジが魅力的。
歌詞の内容も、まさに、ねこバスのイメージそのものを歌にしたもので、聴いていると、あのニヤニヤ笑いが目に浮かんでくる。
歌っておられるのは、当時、アニメソングや特撮ソングの歌手として活動されていた北原拓さん。
80年代に活躍しておられたようだが、最近の活動は調べても出てこない…。今は、あまり活動はされておられないのだろうか…。
⑦ふしぎしりとりうた
・作詞:中川李枝子
・歌:森公美子
トトロのイメージ・ソング集の中で、最もクールでカッコいい曲。
ノリのいいリズムアレンジで(リズムアレンジは80年代の雰囲気ではあるが)、このアルバムの中でもっともポップな曲。さすがに、トトロの世界観とは合わないと判断されたのか、映画本編では未使用のモチーフとなった。
歌っているのは、タレントとしても知られる、声楽家・歌手の森公美子さん。
しりとりのようになっているユニークな歌詞を、ソウルフルでパワフルな歌声で歌っている。
イントロのマリンバによるミニマル・フレーズが、久石さんらしいサウンドで、よく似た表現が『ソナチネ』テーマ曲などでも見受けられる。
そのイントロからの、リズム・マシーンのドラムサウンドやシンセ・ブラスが、とにかくカッコいい!
マイケル・ジャ〇ソンとかが歌っていても不思議じゃないくらい、クールでポップな曲調である。さすがは、クインシー・ジョーン…じゃなくて久石譲さん。久石さんの音楽性の幅広さを、あらためて体感できるナンバーである。
⑧おかあさん
・作詞:中川李枝子
・歌:井上あずみ
おかあさんが入院している病院へ、お見舞いに行った帰り道。お父さんがこぐ自転車に、メイとサツキとで3人乗りして、茶畑の中を通りながら、お母さんのことを話すシーンで使われた曲の原曲。
映画本編で流れたバージョンは、サントラに収録されているが、そちらは歌詞は無く、井上あずみさんのスキャットでメロディーが歌われていた。
対して、このイメージソングの方は、お母さんに会いたい気持ちやお母さんを愛する気持ちが歌詞に込められた、印象的な美しいバラード。
メロディーラインも非常に美しく、久石さんらしい抒情的な旋律を味わえる良曲。
映画本編では、それほど多くは登場しなかったメロディーだが、その優しくて流麗な旋律は、とても印象深いものだった。
ぜひ、このフル・バージョンも、多くの人に聴いてほしいと思う。
⑨小さな写真
・作詞:宮崎駿
・歌:久石譲
8曲目に続いて、こちらもとても抒情的でさわやかなメロディーの曲。そして何より、歌っているのは、作曲した久石さん本人!
ピアノを弾いたり、オーケストラを指揮している久石さんの姿しか見たことが無い方には意外に思われるかもしれないが、80年代後半~90年代前半頃にかけては、オリジナル・アルバムなどで歌を披露されている。
ただ、ジブリ関連の作品の中では唯一、この曲のみが、久石さんの歌声を聴ける作品となっている。そういう意味では、貴重な曲と言える。
“お母さんが小さな女の子だった頃の写真”が歌のテーマとなっていて、美しい旋律と相まって、郷愁を誘う良曲となっている。
残念ながら、映画本編ではこの曲は使用されなかったが、もっと評価されるべき名曲である。
後に、宮崎駿監督がプロデュースしたアルバムで、上條恒彦さん(『紅の豚』のマンマユート団ボスや『もののけ姫』のゴンザ、『千と千尋』の父役どのの声担当)が、「お母さんの写真」のタイトルで、この曲を歌っている。
⑩ドンドコまつり
・作詞:W・シティ制作部
・歌:井上あずみ
月夜に、庭であやしげなオバケが、ドンドコ踊り、昼間にまいたドングリが芽を出してぐんぐん伸びていく…という内容の歌詞だが、トトロのファンの方なら、映画のどのシーンのことを描いた歌かは一目瞭然と思う。
実際の映画本編では、この曲自体は使われず、太鼓の音の要素のみ、少し使われた程度だった。
とは言え、映画のあのシーンを思い浮かべられる、まさに“イメージソング”と言える。
楽しげなメロディーと歌詞がピッタリはまっており、聴いていてワクワクするような愉快な曲である。
曲のエンディングのブルース・ハープが、とてもカッコいい演奏をしている。
作詞が、W・シティ制作部となっており、久石さんのプロダクションの“ワンダーシティ”のことと思われるので、久石さんもある程度(もしかしたら、かなりの程度)この曲の作詞に携わっておられるのかもしれない。
⑪風のとおり道(インストゥルメンタル)
杉並児童合唱団が歌っていた2曲目「風のとおり道」のインストゥルメンタル・バージョン。
歌声のトラックを除いたカラオケのようになっているが、このインスト版には、シンセ・ベル系の音などでメインのメロディーがしっかりと演奏されている。そこから推察して、この11曲目のインスト版に合唱を吹き込んだのが、2曲目だったのかもしれない。
実際の映画の中で流れる音楽は、この原曲インスト版に近いものとなっており、イメージアルバムの段階で、すでに高い完成度を誇っている楽曲と言える。
演奏楽器はシンセサイザーの音色だが、マリンバのミニマル・フレーズや、ベル系のサウンド、透明感のあるホイッスル系リード音などが使われ、とてもナチュラルな響きを味わえる作品である。
緑の木々、見上げるような大樹、木漏れ日の中を吹き抜ける爽やかな風…そんな、日本の自然の光景が目に浮かんでくるような、傑作・名曲であると言える。
<総評>
根強い人気を誇る、宮崎駿監督の『となりのトトロ』。
そのイメージアルバムにあたるのが、この作品である。
タイトルが“イメージ・ソング集”となっていることからも分かるように、本作はインストゥルメンタルではなく、“歌もの”のアルバムとなっている。(唯一、ボーナストラック的な11曲目の、「風のとおり道(インスト版)」のみが器楽曲である)
他の作品のイメージアルバムでも、歌が入っている曲が何曲か収録されている例は、いくつかある。
だが、ほぼ全曲にわたって、歌ものになっているのは、となりのトトロのイメージアルバムだけで、その点が最大の特色となっている。
このことによって、普段あまりインストゥルメンタル音楽を聴かない人や、小さな子供たちでも、歌詞の持つイマジネーションを通して、トトロの世界を音楽で想像することができるアルバムとなっている。
収録曲は、映画の2つの主題歌「となりのトトロ」と「さんぽ」をはじめとして、「風のとおり道」や「まいご」など名曲揃い。
特に2つの主題歌はラピュタの時とは違って、イメージアルバムの時点で完全な状態で完成されており、このアルバムに収録されたものと同じアレンジで、サントラにも収録されている。なので、トトロの主題歌が収録されたCDを探していて、イメージ・ソング集とサウンドトラックのどちらを購入するべきか迷った場合、単に2つの主題歌を聴きたいという目的ならば、どちらを購入しても大丈夫ということになる。(あとは、歌もののアルバムが好きならイメージ・ソング集を、インスト曲が好きだったり、映画のBGMも欲しい場合は、サウンドトラックを購入すると良い)
「となりのトトロ イメージ・ソング集」は、久石さんが手がけたジブリ音楽のアルバムの中でも、最も優しく温かい作風のアルバムである。
メロディーも、親しみやすい曲ばかりなので、万人にお薦めできる作品と言える。
トトロの世界をイメージしたい時はもちろん、優しい気持ちになりたい時、童心を思い出して懐かしい気持ちになりたい時などにもおすすめ。
また、落ち込んだ時に聴けば、きっと元気を与えてくれることだろう。